3社そろわないときは、社数の代わりに比べる材料をそろえます
中核市や地方都市では、介護施設の修繕で相見積が3社そろわないことがあります。市内にその分野の業者が少ない、声をかけても人手が足りずに断られる、遠いので見積に来てもらえない、といった理由です。そのときは、社数を無理にそろえるより、金額と中身を比べる材料をそろえて判断します。
材料は、手元にあるものから順に5つあります。施設の過去の記録、数量で割り戻した単価、同じ法人や近くの施設の記録、範囲を広げて頼む見積、設計事務所など第三者の目です。
3社なくても確かめる5つの方法| 方法 | どう使うか | 向いている工事 | 手間と費用 |
|---|
| 施設の過去の記録 | 前回の同じ工事の金額と範囲を、今回と並べる | 同じ部位を繰り返す修理や、機器の更新 | 少ない。記録があればすぐできる |
|---|
| 数量で割り戻した単価 | 1台・1か所・1㎡あたりにして、目安や前回と比べる | 台数や面積のある工事 | 少ない。数量が見積に書いてあればできる |
|---|
| 同じ法人・近くの施設の記録 | 似た時期の似た工事の金額を教えてもらう | 空調・給湯・防水など、どの施設にもある工事 | 中くらい。聞く相手が要る |
|---|
| 範囲を広げた見積 | 隣の市や県庁所在地の業者に見積を頼む | 金額の大きい、計画できる工事 | 多い。出張費や日程の調整がかかる |
|---|
| 第三者の目 | 設計事務所などに、見積と仕様を読んでもらう | 大規模な改修 | 多い。読んでもらう費用がかかる |
|---|
この5つは、どれか1つで足りるものではなく、工事の大きさに合わせて組み合わせます。何社から見積を取るかの考え方は社会福祉法人の相見積は、400万円を境に2社と3社に分かれますにまとめています。見積書そのものの読み方(一式の分け方、内訳の比率、抜けの探し方)は「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できますにあります。
この記事では、比べる相手をどこから持ってくるかと、候補が少ない地域ならではの事情を中心に書きます。
工事の金額が大きいほど、そろえる材料を増やします
すべての修理で5つをそろえる必要はありません。数万円の修理に何日もかけて比べると、直るのが遅れ、比べる手間のほうが大きくなります。工事の金額で、そろえる材料の数を変えます。
図1 金額が大きいほど、比べる材料を増やす。
工事の金額の帯ごとの、材料のそろえ方| 金額の帯の目安 | 工事の例(費用の目安) | そろえる材料 |
|---|
| 数万円まで | 建具の調整・照明の交換(5,000円〜3万円)、水漏れ・詰まりの修理(1万5,000円〜8万円) | 過去の記録か単価のどちらか1つ |
|---|
| 数十万〜数百万円 | エアコンの交換(1台20万〜60万円)、業務用給湯器の交換(1台80万〜400万円) | 単価と、近くの施設の記録の2つ |
|---|
| 数百万円を超える | 屋上防水の改修(500万〜3,000万円)、外壁の塗装・補修(800万〜3,000万円) | 範囲を広げた見積か第三者の目を加えて、3つ以上 |
|---|
表の費用は、規模・地域・時期・建物の状態で変わる目安です。急ぎの修理は、材料をそろえるより先に直すことを優先し、あとから記録と単価で確かめても間に合います。
社会福祉法人では、法人の経理規程で、金額ごとに見積の社数が決まっています。規程の社数に届かないときの記録の残し方は、次の節で書きます。
社会福祉法人は、3社に届かない理由と確かめた材料を残します
社会福祉法人の工事の見積合わせには、国の通知があります。3社以上の業者から見積を取って比べる「など」して、適正な価格を客観的に判断する、という考え方です。工事の請負で400万円を超えない場合は、2社以上の見積でよいとされています(令和8年4月1日から。それまでは250万円)。
通知は、見積を取る業者と契約の金額を決めるときに、公平性と透明性に十分気を配ることも求めています。3社そろわないときにどう扱うかは、法人の経理規程と所轄庁の考え方を確かめます。そのうえで、声をかけた記録と、価格を確かめた材料を残しておきます。
見積が3社そろわなかったときに、残しておく記録| 残す記録 | 中身の例 |
|---|
| 声をかけた業者 | 業者の名前、声をかけた日、頼み方(電話・メール・書面) |
|---|
| 返事と辞退の理由 | 人手が足りない、遠くて来られない、分野が違う、など |
|---|
| 確かめた材料 | 過去の記録、単価、近くの施設の金額、範囲を広げた見積 |
|---|
| 決めた理由 | なぜこの業者とこの金額で妥当と考えたか |
|---|
| 承認 | 誰が、いつ承認したか(理事長、理事会など) |
|---|
この記録は、運営指導や監査、理事会で「なぜこの業者で、この金額なのか」を聞かれたときに、そのまま説明に使えます。工事が終わってからまとめるより、声をかけたその日に書いておくほうが、日付や返事を正しく残せます。
補助金を使う工事では、補助の決まりで、業者の選び方にさらに条件がつくことがあります。その場合は、補助の要綱と所轄庁の指示が先です。補助を使うときの選び方は補助を使う工事では、相見積か入札かを交付の条件で確かめますにまとめています。
過去の記録と単価は、手元ですぐ使える物差しです
手元の材料でいちばん早く使えるのは、施設の過去の記録です。前回の同じ工事の見積書、請求書、工事の写真があれば、今回の見積と並べて比べられます。地方では前回も同じ業者が工事をしていることが多く、同じ会社の前回と今回を比べることになります。
並べて比べるときは、範囲、数量、時期、条件の4つをそろえます。前回は屋上の半分だけだった、前回は夜間の作業がなかった、といった違いがあると、金額だけ並べても比べられません。
過去の記録と比べるときに、そろえる4つのこと| そろえること | 確かめ方 |
|---|
| 範囲 | 前回の図面や写真に、今回の範囲を重ねて描く |
|---|
| 数量 | 台数、面積、か所の数を、1台・1㎡・1か所あたりに割り戻す |
|---|
| 時期 | 前回から何年たったか。資材や人の費用の動きも考える |
|---|
| 条件 | 入居者の方がいる中の工事か、時間帯の制限や夜間の作業があったか |
|---|
単価に割り戻すと、記録のない工事でも、目安と比べられます。たとえばエアコン6台の交換の見積なら、1台あたりに割ってみます。目安は1台20万〜60万円で、能力や配管の長さ、時間帯で幅が出ます。目安から大きく外れるときは、その理由を業者に聞きます。
入居者の方がいる中の工事では、仮設・養生・時間帯の割増が総額の2割〜4割になることがあります。単価に割り戻すときは、この部分を分けて見ると、前回や目安と比べやすくなります。修理の記録(修繕履歴)の残し方は長期修繕計画は、30年・5年・単年の3つで持ちますの中で書いています。
範囲を広げて頼むかは、比べる意味があるかで決めます
市内で候補がそろわないとき、隣の市や県庁所在地の業者に見積を頼む方法があります。範囲を広げると候補は増えますが、出張費や宿泊費がかかり、工事のあとの手直しや急ぎの対応で来てもらいにくくなります。
分かれ目は、移動の費用を足しても、比べる意味があるかどうかです。工事が大きく、日程に余裕があるほど、範囲を広げる意味があります。急ぎの修理は、範囲を広げて比べるより、記録と単価で確かめるほうが早く済みます。
図2 工事の大きさと急ぎで、範囲を広げるかを決める。
遠くの業者に見積を頼むときの工夫| 工夫 | 中身 |
|---|
| 図面と数量を先に送る | 現地に来る前に、範囲と数量の見当をつけてもらう |
|---|
| 下見の日をまとめる | 同じ日に、ほかの工事の下見もあわせて頼む |
|---|
| 見積の期限を長めにとる | 地元の業者より日程が組みにくいことを見込む |
|---|
| 工事のあとの分担を決める | 小さな手直しを地元の業者に頼めるかを、先に決めておく |
|---|
| 比べるための見積だと伝える | 地元の業者と比べることを、頼む前に正直に伝える |
|---|
範囲を広げても候補が見つからない分野は、全国に拠点を持つ会社や、地域の業者を手配する窓口型の会社を使う方法もあります。全国対応の会社の形の違いは「全国対応」の営繕業者は、誰が来るかで3つに分かれますにまとめています。
地方で候補を探すには、公的な名簿と地域のつながりを使います
地方では、インターネットで探しても、施設の工事を受ける業者がなかなか見つからないことがあります。ホームページを持たない地元の業者もいるからです。そのときは、自治体などが公開している名簿と、地域のつながりの2つから探します。
地方で修繕の業者の候補を探す手段| 手段 | 見つかる業者 | 使うときの注意 |
|---|
| 自治体の入札参加資格者の名簿 | 公共の工事を請け負う地元の業者 | 公開の有無と形は自治体で違う。施設の工事を受けるかは別に聞く |
|---|
| 小規模修繕の登録の制度 | 小さな修繕を請け負いたい地元の業者 | 制度のある市町村だけ。対象の金額や名簿の公開も市町村で違う |
|---|
| 水道事業者の指定工事店の一覧 | 給水の工事ができる地元の業者 | 施設に水を送る水道事業者の一覧を見る |
|---|
| 業界の団体・組合 | 管工事・電気工事・建設などの地元の会員 | 紹介を頼むときは、介護施設の工事であることを伝える |
|---|
| 同業の施設からの紹介 | 介護施設で工事をしたことがある業者 | 紹介のあとも、許可と保険は施設で確かめる |
|---|
| メーカーのサービスの窓口 | 特殊浴槽・給湯器・空調などの修理の担当 | 近くの代理店や協力の会社を教えてもらえることがある |
|---|
図3 名簿・つながり・外からの手配の3つを組み合わせる。
名簿で見つけた業者が、介護施設の工事をしたことがあるとは限りません。最初は小さな修理を1件頼み、入居者の方がいる中での段取りを見てから、大きな工事の見積を頼むと安心です。
見つけた候補は、建設業の許可と業種も確かめておきます。調べ方は老人ホームの営繕業者は、公的な記録で確かめられますにあります。団体や同業の施設から紹介を受ける方法は修繕業者の紹介は、団体と同業の施設の2つの経路で集めますにまとめています。
メーカーにしか直せない機器は、地域に関係なく1社になります
特殊浴槽やエレベーター、ナースコールなどの専用の機器は、修理を頼める先がメーカーや代理店の1社に限られることがあります。地方でも都市部でも同じです。この場合は、社数で比べることはもともとできません。
国の通知も、特殊な技術や機器が要る契約などを、競争入札に適さない場合の例に挙げています。1社に決めるときは、その理由と、金額を確かめた材料を記録に残します。確かめるのは、次の3つです。
- 部品代と作業の内訳部品の名前と数、作業の人数と時間を分けて書いてもらう
- 修理か入れ替えか部品の供給がいつまで続くかを聞き、修理であと何年使えるかを確かめる
- 保守の契約点検の回数と、部品の交換が含まれるかを、前の年の契約と比べる
専用の機器では、修理か入れ替えかの見立ても、メーカーや代理店の話だけになりがちです。地方の施設からは、次のような声をいただいています。
だからこそ、故障したからすぐ買い替えるのではなく、まず修繕できるのか相談できる窓口があるのは心強いと感じました。
ご利用者の声 大分県・グループホーム/施設長
取材にもとづき掲載しています(施設名は非公開)。内容はご本人の申告によるもので、個人の感想です。
ナースコールのように、代理店のほかにも頼める場合がある機器もあります。頼み先の広げ方はナースコールの修理、代理店以外に頼めるかにまとめています。
1社しかない業者とは、予定と理由を先に伝えて付き合います
地域にその分野の業者が1社しかないとき、施設はその会社に頼るしかありません。ただ、業者の側にとっても、毎年仕事を頼む施設は大切な取引先です。頼り合う関係を保つには、急ぎのときだけ電話をする付き合い方を変えることから始めます。
図4 急ぎだけの付き合いから、予定を伝え合う付き合いへ。
比べるために他社の見積を取るときは、頼む前に、地元の業者に理由を正直に伝えます。「法人の規程で、この金額の工事は複数の見積が要る」と伝えれば、疑われていると受け取られにくくなります。結果と理由もあとで伝えます。断るときの伝え方は断り方で、次に頼める関係が残るかが決まりますにまとめています。
1社に頼るときの心配と、手の打ち方| 心配 | 手の打ち方 |
|---|
| 金額が上がっても気づけない | 過去の記録と単価で毎回確かめ、数年に一度は範囲を広げた見積を取る |
|---|
| その会社が廃業・代替わりする | 図面、写真、機器の一覧、修理の記録を施設の側に残す |
|---|
| 繁忙期に後回しになる | 年度の初めに、その年の修理と工事の予定を伝えておく |
|---|
| 分野の外の工事まで頼んでしまう | 分野の外は、メーカーや遠くの専門の業者に頼む |
|---|
| 担当者が1人しかいない | 会社の中で、2人目にも施設のことを知ってもらう |
|---|
頼る先が1社しかない状態は、すぐには変えられません。それでも、記録を施設の側に残しておけば、いざというときに別の業者へ引き継げます。廃業や代替わりへの備えは工務店がいなくなる日は、記録と2社目で備えますにまとめています。
雪の多い地域では、外回りの工事の時期が限られます
雪の多い地域では、屋上の防水、外壁、屋根といった外回りの工事は、雪のない時期に行うのが基本です。公共の建物の工事で使う標準仕様書は、塗装の条件を決めています。塗る場所の気温が5℃以下、湿度が85%以上のときや、結露して乾きにくいときは、原則として塗装をしません。
雨のおそれがある日や風の強い日も、外の塗装は原則として行いません。防水も、雨や雪の日、下地が濡れているときは見合わせるのがふつうです。雪解けから初雪までの期間に、天気で進まない日を見込んで工期を組みます。
雪の多い地域の、工事の時期の目安| 工事 | 向いている時期 | 気をつけること |
|---|
| 屋上防水・屋根 | 雪が解けて下地が乾いてから、初雪の前まで | 雨や雪の日は進まない。日数に余裕をみる |
|---|
| 外壁の塗装・補修 | 気温の上がる時期 | 気温5℃以下・湿度85%以上では、原則として塗らない |
|---|
| 暖房・給湯の機器の更新 | 暖房を使わない時期 | 冬に止めると暮らしに響く。秋までに終える |
|---|
| 室内の工事(内装・建具・設備) | 冬でもできる | 雪で業者が来られない日を見込む |
|---|
| 凍結の対策(配管の保温・ヒーター) | 雪の前の秋 | 点検と修理は、凍る前に済ませる |
|---|
雪のない時期は、地域のどの建物も外回りの工事をしたい時期です。候補が少ない地域ほど、地元の業者の予定は早く埋まります。外回りの工事は、前の年の秋から準備を始め、雪解けの前に契約を終えておくと、工事の時期を逃しにくくなります。
図5 外回りの工事は、雪のない期間から逆算して決める。
補助金を使う工事は、原則として交付の決定のあとに着工します。決定が夏になると、雪の前に工事を終える日数が足りなくなることがあります。補助金を使う工事の流れと月数は補助を使う工事は、交付決定の通知が届くまで契約しませんにまとめています。
モデルケース:雪の多い地方都市の特養で、外壁の見積が1社だけだったとき
モデルケース:定員100名の特別養護老人ホーム
見積は地元の1社だけでも、理事会で説明できる材料を6週間でそろえた
変わったこと(結果)
外壁の補修で、市内の業者から出た見積は1社だけでした。施設は6週間で、比べる材料を4つそろえました。13年前の工事の記録、1㎡あたりの単価、同じ法人の別の施設の記録、県庁所在地の業者の見積です。2月の理事会で、地元の業者との契約の承認を受けました。工事は雪解けのあとの5月に始まり、初雪の前の10月半ばに終わりました。
背景と、困っていたこと
この特養は、雪の多い地方都市にあります。市内で外壁の工事を受ける業者は2社で、1社は人手が足りないと辞退しました。前回の工事も、残った1社がしていました。法人の経理規程では、この金額の工事は3社以上の見積を取ることになっています。事務長は、1社の見積で決めてよいのか、県庁所在地の業者を呼ぶと出張費がかさむのではないかと迷っていました。
決めたこと
事務長は、13年前の請求書と図面から1㎡あたりの単価を出し、今回の見積と比べました。同じ法人の隣の市の施設が3年前に行った外壁の工事の記録も、本部から借りました。車で1時間半ほどの県庁所在地の業者には、出張費と宿泊費を別の行にした見積を頼みました。
2社目の見積は、工事費だけなら地元の業者と近い金額で、出張費と宿泊費を足すと1割ほど高くなりました。施設は地元の業者に決め、声をかけた3社の記録、辞退の理由、4つの材料を1枚にまとめて理事会に出しました。
進めてみて分かったこと
地元の業者には、見積を頼む前に「規程で比べる必要がある」と伝えていたので、内訳を細かく出してもらえました。2月のうちに契約の見通しを伝えたことで、雪解けすぐの5月の初めから日程を組んでもらえました。