全国対応の営繕業者はあり、中身は3つの形に分かれます
介護施設の営繕を「全国対応」で受ける業者はあります。ただ、同じ言葉でも、施設に実際に来る人と、着くまでの時間は会社によって違います。中身を分けると、直営型・提携型・都度手配型の3つになります。
直営型は、自社の拠点と自社の技術者が各地にいて、その拠点から人が来る形です。提携型は、本部が受付と契約をまとめ、各地の提携先の会社が工事をする形です。都度手配型は、相談を受けるたびに、その地域で工事ができる業者を探して手配する形です。
「全国対応」の3つの形の違い| 形 | 拠点の数 | 急ぎの到着の時間 | 品質のそろい方 | 費用の出方 |
|---|
| 直営型 | 自社の拠点が各地にある。都市部に多く、拠点のない県もある | 拠点から近ければ当日。遠い地域は翌日以降もある | 同じ手順書と研修で、そろいやすい | 出張費や時間あたりの料金が決まっていることが多い |
|---|
| 提携型 | 本部は1〜数か所。工事は各地の提携先 | 提携先までの距離と、その日の空き次第 | 提携先の会社ごとに差が出る | 提携先の工事費に、本部の管理の費用が乗ることがある |
|---|
| 都度手配型 | 工事の拠点は持たないか、少ない | 業者を決めてから日程を組むので、計画できる修理に向く | 案件ごとに来る会社が違い、差が出やすい | 手数料の形(誰が払うか)が会社ごとに違う |
|---|
図1 同じ「全国対応」でも、誰が来るかで3つに分かれる。
どの形がよく、どの形が悪い、ということではありません。急ぎの故障に強い形、点検や記録をそろえやすい形、見積を比べやすい形と、得意なことが違います。頼みたいのが急ぎの故障か、決まった点検か、計画できる工事かで、合う形が変わります。
違いは、誰が来て、誰が責任を持つかです
3つの形のいちばん大きな違いは、契約の相手と、実際に工事をする会社が同じかどうかです。ここが分かると、工事のあとに不具合が出たとき、どこに連絡すればよいかも分かります。
契約の相手と、実際に工事をする会社| 形 | 契約の相手 | 実際に工事をする会社 | 工事のあとの不具合の連絡先 |
|---|
| 直営型 | 全国対応の会社 | 同じ会社の技術者 | 同じ会社の受付 |
|---|
| 提携型 | 本部の会社 | 各地の提携先の会社 | 本部の受付。提携先へ直接のこともある |
|---|
| 都度手配型 | 工事をする地域の会社か、手配した会社 | 案件ごとに選ばれた地域の会社 | 契約の形で変わる。契約の前に確かめる |
|---|
提携型では、本部の会社が元請けになり、提携先が下請けとして工事をすることが多くあります。工事をまるごと別の会社に任せる一括下請負は、建設業法で原則として禁じられています。契約の前に、本部の会社が現場で何を受け持つのか(工程の管理、立ち会い、完成の検査など)を聞いておきます。契約の形の違いは「一社にまとめる」には、二つの意味がありますにまとめています。
都度手配型では、施設が工事をする会社と直接に契約する形と、手配した会社が間に入って契約する形があります。どちらかで、見積書のあて先、支払いの先、保証の相手が変わります。見積を受け取った時点で、この3つを確かめておくと、あとで迷いません。
急ぎの故障のときに誰が来るかは、契約書に書かれていないこともあります。「全国対応」という言葉ではなく、施設のある市町村に、誰が、どこから来るのかを聞くことが出発点です。
契約の前に3つを聞くと、形が見分けられます
パンフレットやホームページだけでは、3つの形のどれなのかは分かりにくいものです。契約の前に、次の3つを聞くと、たいていは見分けがつきます。答えは口頭だけでなく、メールや見積書など書面でもらっておきます。
図2 3つの答えで、直営・提携・都度手配のどれかが分かる。
3つの質問と、答えから分かること| 質問 | はっきりした答え | 確かめを続けたい答え |
|---|
| この県に、自社の拠点はありますか | 拠点のある市の名前と、そこにいる技術者の人数まで言える | 「全国どこでも対応します」とだけ答える |
|---|
| 工事に来るのは、どこの会社の人ですか | 自社の社員か、決まった提携先の会社の名前を言える | 「その都度、手配します」で終わり、決め方の説明がない |
|---|
| 夜や休日に止まったら、何時間で来ますか | 受付の時間と、現地に着くまでの時間を分けて言える | 「すぐに対応します」と、時間を言わない |
|---|
1つ目の質問で、直営型かどうかがほぼ分かります。2つ目で、提携型か都度手配型かが分かります。3つ目は、どの形でも答えが分かれるところです。直営型でも拠点から遠ければ時間がかかり、都度手配型でも近くに業者が見つかれば早く来られます。
到着の時間は、会社の形より、施設から拠点や部品の置き場までの距離で決まることが多くあります。時間の聞き方と、距離の見方は近くの業者は、市区町村の名前より着くまでの時間で選びますにまとめています。
県に拠点があるかは、許可と登録でも確かめられます
「この県に拠点があるか」は、建設業の許可でも、ある程度まで確かめられます。建設業の許可は、営業所のある都道府県の数で、出す先が変わります。2つ以上の都道府県に営業所があれば国土交通大臣、1つの都道府県だけなら知事の許可です。
ただし、この区分は営業所の場所で分かれるもので、工事ができる地域を決めるものではありません。国土交通省も、知事の許可の業者でも、工事は全国どこでも行えると説明しています。大臣の許可だから自分の県に拠点がある、知事の許可だから来られない、とは言えません。
全国対応の会社でも、地域ごとに確かめる許可と登録| 見るもの | 分かること | 分からないこと・注意 |
|---|
| 建設業の許可(大臣) | 2つ以上の都道府県に営業所がある | 自分の県に営業所があるかは、別に確かめる |
|---|
| 建設業の許可(知事) | 営業所が1つの都道府県だけにある | ほかの県で工事ができないわけではない |
|---|
| 許可の業種 | どの種類の工事を請け負えるか | 介護施設での工事に慣れているか |
|---|
| フロンの充塡回収の登録 | 業務用エアコンのフロンを扱えるか | 登録は、業務をする区域の都道府県ごと |
|---|
| 水道の指定工事店 | 給水の工事ができるか | 指定は、その水道事業者の給水区域の中だけで有効 |
|---|
とくに気をつけたいのが、業務用エアコンと給水の工事です。フロンを回収する業者の登録は、業務をする区域の都道府県の知事から受けます。給水の工事の指定は、指定した水道事業者の給水区域の中でしか使えません。全国対応の会社でも、施設の県の登録や、施設に水を送る水道事業者の指定がなければ、その工事は地元の業者に頼むことになります。
許可や登録は、国や都道府県の検索の仕組みや一覧で調べられます。調べ方は老人ホームの営繕業者は、公的な記録で確かめられますにあります。
品質のそろい方は、依頼と報告の形で変わります
直営型は、同じ会社の技術者が同じ手順で作業するので、どの施設でも作業の進め方がそろいやすくなります。提携型と都度手配型は、来る会社が地域や案件で変わるので、作業の進め方や報告の細かさに差が出やすくなります。
この差は、施設の側で「依頼の形」と「報告の形」を決めておくと小さくできます。どの会社が来ても、同じ情報を渡し、同じ形で報告を受け取るようにするのです。
どの会社が来ても品質をそろえるために、施設が決めること| 決めること | 中身の例 |
|---|
| 依頼の形 | 場所、症状、写真、型番、急ぎかどうか、作業できる時間帯を1枚に書く |
|---|
| 施設の中の決まり | 居室に入る前に職員が付き添う、食事と入浴の時間は音の出る作業をしない |
|---|
| 作業の前の打ち合わせ | 止める設備と止める時間を、作業の前に職員と確かめる |
|---|
| 完了の報告 | 作業の前と後の写真、交換した部品、次に見たほうがよい時期 |
|---|
| 不具合が戻ったとき | 何日以内なら無償で見直すかを、頼む前に聞いておく |
|---|
依頼の1枚は、どの形の業者に頼むときも同じものを使います。提携先や手配された会社が初めて来る日でも、1枚を読めば施設の決まりが伝わるので、職員が一から説明する時間が減ります。
「介護施設向け」「介護施設専門」という言葉にも、決まった資格や登録はありません。慣れているかどうかは、入居者の方がいる中での段取りを聞くと分かります。見分け方は「介護施設専門」に、資格や登録はありません。慣れているかは、段取りで見分けますにまとめています。
費用の差は、工事費の外の行に出ます
全国対応の業者の見積は、工事そのものの費用より、工事費の外の行で差が出ることが多くあります。遠い拠点からの移動、本部の管理、手配の手数料などです。見積を比べるときは、この行を分けて書いてもらいます。
全国対応の業者の見積で、分けて確かめる行| 行 | 確かめること |
|---|
| 出張費・交通費 | どこの拠点から来る前提の金額か。近くの業者と比べるときは分けて見る |
|---|
| 宿泊費 | 1日で終わらない工事や、遠い地域で乗るか |
|---|
| 管理費・手数料 | 工事費に含まれているか、別の行か。誰が払う形か |
|---|
| 時間外の割増 | 夜や休日に来たときの上乗せの決め方 |
|---|
| 2回目の来訪 | 部品の取り寄せで2回来るとき、出張費が2回分かかるか |
|---|
手配の手数料は、施設が払う形と、工事をする業者が払う形があります。施設が払わない形でも、業者の見積の中に含まれていることがあります。手数料の形と見え方は営繕の代行の手数料は、誰が払っているかで見え方が変わりますにまとめています。
全国型に頼むと高くなる、とは限りません。点検や部品の手配の仕組みが整っていて、同じ作業なら近くの業者と大きく変わらないこともあります。差が大きくなりやすいのは、小さな修理を遠い拠点から呼ぶときです。数千円〜数万円の修理では、移動の費用が工事費を上回ることもあります。
離島と山間部は、全国対応でも扱いが分かれます
「全国対応」と書いてあっても、離島や山間部は別の扱いになることがあります。対象の地域から外れている、交通費や宿泊費が別にかかる、日程が船の便や天候で決まる、といった違いです。契約の前に、施設の住所で対象になるかを聞いておきます。
離島・山間部の施設が、契約の前に聞いておくこと| 聞くこと | 理由 |
|---|
| 施設の住所が対象の地域か | 「全国」でも、離島や一部の山間部を除いていることがある |
|---|
| 交通費と宿泊費の扱い | 船や飛行機の運賃、泊まりの費用が別に乗ることがある |
|---|
| 部品の届き方と日数 | 船便や航空便になり、平地の都市より日数が延びやすい |
|---|
| 天候で来られない日の扱い | 欠航や通行止めで、予定の日に来られないことがある |
|---|
| 地元の業者との分担 | 応急の手当てを、島や町の中の業者に頼めるか |
|---|
離島や山間部では、来てもらえる回数が限られます。1回の来訪で直し切ることが、いちばんの時間の節約になります。故障の写真、機器の銘板(型番と製造年)の写真、動き方の動画を先に送ります。部品をそろえてから来てもらうと、2回目の来訪を減らせます。その日のうちに直るかが部品で決まる理由はその日のうちに直るかは、業者の速さより部品で決まりますにまとめています。
図3 近くに業者がいるかどうかで、頼む順番が変わる。
冬に道路が閉ざされやすい地域や、台風の時期に船が止まりやすい島では、点検の時期を前倒しにします。止まると暮らしに響く給湯、暖房、特殊浴槽は、予備の部品や仮の機器を施設に置いておけるかを、業者と相談しておきます。
急ぎの故障と計画できる工事で、頼み先を分けます
全国対応の業者1社に、すべてを任せる必要はありません。急ぎの故障、決まった点検、計画できる工事で、合う頼み先が違うからです。修理を種類で分けて、それぞれに頼み先を決めておくと、全国型の強みも、近くの業者の強みも生かせます。
修理の種類ごとに、合う頼み先| 修理の種類 | 合う頼み先 | 理由 |
|---|
| 急ぎの故障(水漏れ・停電・空調の停止など) | 施設の近くに拠点がある業者 | 着くまでの時間は、距離でほぼ決まる |
|---|
| 決まった点検・保守 | メーカーや保守の会社、直営型の全国対応の会社 | 手順と記録の形がそろう |
|---|
| 計画できる工事(防水・外壁・機器の入替) | 見積を同じ条件で比べられる頼み先 | 比べる時間がとれる |
|---|
| 小さな修理の束(建具・照明・手すり) | 月1回などまとめて来てくれる地元の業者 | 移動を1回にまとめられる |
|---|
急ぎの故障は、夜や休日にも起きます。全国対応の受付が24時間でも、来られる人が近くにいなければ、到着は翌日になります。夜や休日に来てくれる近くの業者は、平日のうちに決めておきます。決め方は土日祝に修理を頼める業者は、平日のうちに決めておきますにまとめています。
計画できる工事は、急ぐ必要がない分、範囲を広げて比べられます。全国型や窓口を使って、近くにいない分野の業者からも見積を取ると、地元の1社だけでは分からない金額の幅が見えてきます。候補が少ない地域での判断の仕方は相見積が3社取れない地域でも、判断の材料はそろえられますにまとめています。
いくつもの県に施設がある法人は、そろえる仕事と近くで持つ仕事を分けます
いくつもの県に施設を持つ法人では、本部が全国対応の会社と契約し、全施設で同じ会社を使う形がよく選ばれます。報告の形や費用の比べ方がそろい、本部から全体が見えやすくなるからです。
ただ、急ぎの故障、鍵の開け閉め、入居者の方への声かけは、施設ごとに近くで受け持つほうが早く進みます。法人でそろえる仕事と、施設ごとに持つ仕事を分けて決めると、全国型の良さを残したまま、急ぎの遅れを防げます。
図4 形と記録は法人でそろえ、急ぎと立ち会いは施設の近くで受け持つ。
施設が県をまたいで離れているほど、この分け方が効いてきます。本部と施設のあいだでは、急ぎの故障なら施設の判断で近くの業者に頼んでよい金額の線を、先に決めておきます。
施設をエリアごとにまとめて頼み先を決めるかどうかはエリアでまとめると、法人は全体が見え、現場は近さを手放しますにまとめています。法人で修繕の業者を統一する進め方は修繕業者の統一は、分野ごとに3か月で進めますにあります。
災害のときは、全国の体制が効く場面と効かない場面があります
地震や大雨で広い地域が被害を受けると、地元の業者は自社や近所の復旧で手一杯になります。このとき、被害を受けていない地域から人を出せる全国型の体制が、役に立つことがあります。都度手配型でも、被害の外の地域で業者を探せる場合があります。
いっぽうで、全国型でもすぐには来られないことがあります。道路が通れない、燃料が手に入らない、病院など先に回る先がある、といった理由です。契約している会社が、災害のときにどの順番で回るのかは、平常時に聞いておきます。
- 被害の外から人を出せるか近くの拠点が被害を受けたとき、どこの拠点から来るのか
- 回る順番契約先の中で、どの施設から回るのか。福祉施設の扱いはどうか
- 電話がつながらないときメールやメッセージでも受け付けるか
- 応急の資材ブルーシートや仮の配管の部材などを、持って来られるか
聞いた答えは、施設のBCP(業務継続計画)の中に、設備の復旧の頼み先として書いておきます。全国型の連絡先と、近くの業者の連絡先の両方を並べておくと、どちらかがつながらないときにも動けます。
モデルケース:本社が別の県にある有料老人ホームの、急ぎの修理
モデルケース:定員54名の介護付有料老人ホーム
急ぎの修理で業者が着くまでが、翌日から当日の数時間に
変わったこと(結果)
本社が契約する全国対応の会社とは別に、近くの設備の会社と電気工事の会社の2社を、急ぎの故障の頼み先に決めました。それまでは、昼すぎに水漏れや空調の停止を連絡すると、業者が着くのは翌日になりがちでした。今は平日の日中なら、連絡から2〜3時間ほどで来てもらえています。全国対応の会社には、年2回の点検と、大きな工事の見積を続けて任せています。
背景と、困っていたこと
このホームは、本社が別の県にある会社が運営しています。本社は全国の施設をまとめて1つの営繕の会社と契約し、ホームも故障のたびにその会社の受付へ連絡していました。ところが、県内にはその会社の拠点がなく、実際に来るのは隣の県の提携先でした。片道2時間近くかかるため、到着が翌日になりがちでした。事務長は、本社の契約を施設の判断で変えてよいのか迷っていました。
決めたこと
事務長は、契約先に3つの質問(県の拠点・工事に来る会社・急ぎの到着の時間)をメールで送りました。書面でもらった答えは、本社に報告しました。そのうえで、急ぎの故障に限り、施設の近くの2社に頼めるよう本社と決まりを作りました。地元に頼んだ修理も、本社の様式で写真と費用を報告することにしたので、法人全体の記録の形はそろったままです。
進めてみて分かったこと
地元の2社には、急ぎの前に小さな修理を1件ずつ頼み、居室に入るときの声かけなど、ホームの決まりを覚えてもらいました。決まりを作ってからの半年で急ぎの故障は8件あり、うち7件はその日のうちに直りました。残る1件は、部品の取り寄せで3日かかりました。