入居者の方が負担するのは、通常を超える傷みを直す費用です
有料老人ホームの退去時の原状回復は、「入居した日の新品の状態に戻すこと」ではありません。原状回復の費用の負担について、国の有料老人ホームの指針は、1つの資料を参考にするよう示しています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
ガイドラインは、原状回復を、借りた人の故意・過失や、通常の使い方を超える使い方でできた傷みを直すことと定めています。年数がたって古くなった分と、ふつうに暮らしてできた傷みは、家賃や利用料の中で貸す側が受け持つ、という考え方です。
原状回復の負担を分ける、4つの区分| 区分 | 中身 | 居室での例 | 負担 |
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| 経年の劣化 | 年数がたつと、誰が住んでも起きる傷み | 日焼けによる壁紙や床の色あせ、寿命による設備の故障 | 事業者 |
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| 通常の損耗 | ふつうに暮らすとできる傷み | 家具や介護ベッドの脚の跡、テレビや冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ、画びょうの穴 | 事業者 |
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| 故意・過失、通常を超える使い方 | 不注意や、ふつうではない使い方でできた傷み | 重い物を掛けて下地まで傷んだくぎ穴、たばこのヤニとにおい | 入居者の方 |
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| 手入れ不足で広がった傷み | もとは通常の損耗でも、放っておいて広がった分 | 飲みこぼしを放置したしみやカビ、結露を放置して傷んだ壁 | 広がった分は入居者の方 |
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図1 ふつうに暮らしてもできる傷みかどうかで、負担の側が決まる。
建物の賃貸借の契約で住むホームや、サービス付き高齢者向け住宅では、民法第621条が同じ考え方を定めています。借りた人は、通常の使い方でできた損耗と経年の変化を除いて、傷みを元に戻す義務を負う、という決まりです。利用権の契約のホームでも、指針がガイドラインを参考にするよう示しているので、同じ線で考えるのが基本になります。
国民生活センターも、同じ考え方で助言しています。年月の経過による損耗や、通常の使い方でもできる汚れや傷は、修繕の費用を入居者が負担する必要はないと考えられる、という内容です。ただし、契約書に費用の負担についての特約があり、入居者の方と合意している場合は、特約に従います。特約の扱いは、契約書の節で書きます。
工事は「元に戻す修繕」と「良くする改修」に分けます
退去のあとの工事には、性格の違う2つの工事が混ざっています。傷んだところを元の状態に戻す「修繕」と、次の入居者の方のために、元より良くする「改修」です。精算でもめる原因の多くは、この2つが1枚の見積の中で混ざっていることにあります。
退去のあとの工事を、修繕と改修に分ける例| 工事 | 修繕か改修か | 費用の負担 |
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| たばこのヤニで変色した壁紙の張り替え | 修繕 | 入居者の方(住んだ年数で割り引く) |
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| 日焼けで色あせた壁紙の張り替え | 修繕 | 事業者 |
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| 物を落として割れた洗面台の交換 | 修繕 | 入居者の方(設備の年数を考える) |
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| 寿命で冷えなくなったエアコンの交換 | 修繕 | 事業者 |
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| まだ動く古いエアコンを、省エネの機種に替える | 改修 | 事業者 |
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| 床を、すべりにくい床材に替える | 改修 | 事業者 |
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| 手すりを足す、照明を明るいものに替える | 改修 | 事業者 |
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図2 修繕は原因で負担を分け、改修は事業者が受け持つ。
ガイドラインでも、次の入居者を迎えるための工事や、建物の価値を上げる工事は、貸す側の負担として整理されています。退去する入居者の方が付けた、通常を超える傷みを直すまでが原状回復で、それより良くする分はホームの投資です。この線を職員の間でそろえておくと、ご家族への説明が人によって変わることがなくなります。
修繕と改修を分けるには、業者に見積を頼むときに「元に戻す工事」と「次の入居のために変える工事」を別の行で書いてもらいます。分けた見積があれば、ご家族への精算書には、修繕の中の入居者の方の負担分だけを載せられます。会計でも、改修は資本的支出になることがあり、見積の書き方で処理が変わります。修繕費と資本的支出をどう分けるか、見積で何を準備するかは修繕費か資本的支出かは、見積の分け方で判断しやすくなりますにまとめています。
居室の場所ごとに、負担の分け方の例を並べます
負担の分け方は、場所ごとに例を並べておくと、立ち会いの場で迷いません。介護を受けながら暮らす居室では、車椅子や介護ベッドを使うのがふつうの暮らしです。車椅子や歩行器の当たり傷、ベッドの脚の跡は、通常の損耗として扱うのが自然です。
居室の場所ごとの、負担の分け方の例| 場所 | 事業者の負担になる例 | 入居者の方の負担になる例 |
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| 壁・壁紙 | 日焼け、テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ、画びょうの穴、車椅子の当たり傷 | たばこのヤニとにおい、重い物を掛けて下地まで傷んだくぎ穴やねじ穴、落書き |
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| 床 | 家具や介護ベッドの脚の跡、日焼けの色あせ、年数によるすり減り | 物を落としてできたへこみや割れ、飲みこぼしを放置したしみやカビ |
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| 建具・扉 | 年数による扉のゆがみ、金物のゆるみ、戸車のすり減り | 強くぶつけてできた扉の穴や割れ |
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| 水回り | 年数による水栓のゆるみや、パッキンの傷み | 手入れを怠ってこびりついた水あかやカビ、物を落とした洗面台の割れ |
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| 設備 | 寿命によるエアコンや照明の故障 | 説明を受けた使い方に反して壊した設備 |
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| 鍵 | なくしたり壊したりしていないときの、次の入居者の方のための交換 | 鍵をなくしたときや、壊したときの交換 |
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| 清掃 | 通常の清掃をしていた居室の、専門業者による全体の清掃 | 特約で合意しているときの清掃費 |
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表の例は、ガイドラインの考え方を、介護の居室に当てはめたものです。実際の線は、ホームの契約書の書き方で変わることがあります。表をそのまま使うのではなく、自分のホームの契約書と照らして、別紙の形に直しておきます。介護の居室に多い長いシートの床を、どの区分で扱うかも、別紙で決めておくと迷いません。
認知症の症状が関わる傷みは、扱いを一律に決めないほうが安全です。入居中に壁や建具が壊れたときは、その都度、日付と写真を記録してご家族に伝えます。直すかどうかと費用の扱いも、そのときに話しておきます。退去のときに初めて伝えると、「聞いていない」という行き違いが起きやすくなります。
ドアや手すりの不具合を部品から見分ける方法はドアや手すりの不具合は、6つの部品のどれかですにあります。床が剥がれたときの手当てと床材の選び方は床が剥がれた・段差ができた。まず、つまずかない手当てをに書いています。
入居者の方の負担でも、住んだ年数で割り引きます
入居者の方の負担になる傷みでも、費用の全額を求めるわけではありません。壁紙や床のクッションフロアは、年数がたつほど価値が下がるからです。ガイドラインは、壁紙・カーペット・クッションフロアについて、計算の考え方を示しています。6年で価値が1円になる直線を引き、退去のときに残っている価値の割合だけを、入居者の方の負担とします。
図3 傷みの原因が入居者の方にあるときも、壁紙は6年で価値が1円になる直線で負担の割合を出す。
年数は、入居の年数で代えて数える方式がガイドラインで示されています。入居のときに新品でなかった壁紙は、その分だけ価値が低い状態から数えます。入居の前に張り替えていれば、入居の年数がそのまま使えます。
部位ごとの、年数の扱いと負担の単位| 部位 | 年数の扱い | 入居者の方の負担の単位 |
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| 壁紙(クロス) | 6年で価値が1円になる直線で計算 | ㎡単位が望ましい。傷のある面の一面分までは、やむを得ないとされる |
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| たばこのヤニ | 壁紙と同じく年数を考える | 居室全体の清掃か張り替え |
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| カーペット・クッションフロア | 6年で価値が1円になる直線で計算 | 傷が何か所にもあるときは居室全体 |
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| フローリングの部分の補修 | 年数は考えない | 補修した部分の費用 |
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| フローリングの全体の張り替え | 建物の耐用年数で計算(割り引きは小さい) | 傷みが床全体に及ぶときに限り、全体 |
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| 畳表・ふすま紙・障子紙 | 消耗品として年数は考えない | 傷めた枚数の分 |
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たとえば、入居の前に張り替えた壁紙を、3年住んだ入居者の方がたばこのヤニで変色させた場合です。居室全体の張り替えが8万円なら、入居者の方の負担は年数で割り引いて、およそ半分の4万円が目安になります。6年以上住んだ居室では、壁紙の価値はほぼ残っていないため、入居者の方に求められる額はごく小さくなります。
計算には、壁紙や床をいつ張り替えたかの記録が要ります。退去のたびに、張り替えた部位と日付を居室ごとに残しておくと、次の退去で年数がすぐ分かります。設備や内装の年式を残す機器台帳の作り方は機器台帳は、竣工図と現地と保守の会社の3つで作りますにあります。
契約書と重要事項説明書で、先に決めておくこと
負担の線をどこに引くかは、最後は契約で決まります。有料老人ホームの契約には、利用権の契約、建物の賃貸借の契約、終身の建物の賃貸借の契約などがあります。どの形でも、原状回復の範囲、敷金の扱い、精算の時期と方法を、契約書と重要事項説明書に書いておきます。
原状回復について、契約で決めておくこと| 決めること | 決め方の例 | 気をつけること |
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| 負担の区分 | 場所ごとの負担の例を、契約書の別紙の表にする | ガイドラインより入居者の方に重い線は、特約の扱いになる |
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| 年数の割り引き | 壁紙や床は、張り替えてからの年数で割り引くと書く | 張り替えた日の記録を残しておく |
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| 敷金 | 受け取るなら、家賃の6か月分を超えない額にする | 退去のときに、原状回復の費用を除いて全額返す |
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| 清掃の費用 | 入居者の方に求めるなら、特約として書き、金額の目安を示す | 入居のときに口頭でも説明し、説明した記録を残す |
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| 精算の時期と方法 | 退去から何日以内に精算書を出すか、どこから差し引くか | 内訳と写真を添えて出す |
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| 明け渡しと残された物 | 明け渡しの期限と、残された物の引き取りの方法 | 亡くなっての退去では、ご家族の都合も聞いて決める |
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特約で、ガイドラインの考え方より入居者の方に重い負担を決めることもできます。ただし、ガイドラインは、特約が認められるための要件として3つを挙げています。特約が要る合理的な理由があり、暴利的でないこと。入居者の方が、通常の原状回復を超える負担だと分かっていること。そのうえで、その負担を負うと意思を示していることです。
清掃の費用などを特約にするなら、金額の目安と理由を書き、入居のときに説明して、説明した日と相手を記録しておきます。敷金は、国の指針で、受け取るなら6か月分を超えない額とし、退去のときに原状回復の費用を除いて全額返すことになっています。前払金(入居一時金)の返還は、原状回復とは別の決まりで計算するので、精算書では項目を分けて書きます。
入居のときの記録が、退去のときの話し合いを決めます
退去の話し合いがこじれるのは、多くの場合、入居のときの状態を誰も示せないときです。国民生活センターには、こんな相談も寄せられています。6年間入居したホームを出るときに、前の入居者のときからあった傷の修繕代を求められた、というものです。入居のときに、ご家族と一緒に居室の状態を確かめ、写真とチェック表で残しておくと、この行き違いは起きにくくなります。
図4 同じ場所を、退去の日にも同じ角度で撮る。
入居のときのチェック表に書くこと| 項目 | 書き方 |
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| 日付と立ち会った人 | 入居の日付、職員の名前、ご家族の名前 |
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| すでにある傷や汚れ | 場所・大きさ・写真の番号を、1行ずつ |
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| 内装を張り替えた日 | 壁紙と床を、いつ張り替えたか |
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| 設備の年式 | エアコン・照明・水栓など、居室の設備の型番と年式 |
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| ホームが付けたもの | 手すり・カーテンレール・棚など、ホームの持ち物の一覧 |
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| ご家族の確かめ | チェック表と写真を見てもらい、署名をもらう |
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写真は入居の日に職員が撮り、チェック表と一緒に、ご家族へ写しを渡します。撮る角度を決めておくと、退去のときに同じ角度で撮って並べられます。入居中に壊れたものや、入居者の方の希望で取り付けた棚なども、その都度チェック表に書き足しておきます。
入居のときの写真がない居室も、今から記録を始められます。居室の点検や修理で入る機会に、ご家族の了解を得て写真を撮り、その日の状態として残します。退去のときは、その写真より前からあった傷みかどうかを、そこから確かめられます。
退去の日の立ち会いは、入居のときの写真を並べて進めます
退去の日の立ち会いは、ホームの職員とご家族(または身元引受人)で行います。入居のときの写真とチェック表を持って居室に入り、同じ場所を同じ角度で撮りながら、傷みを1つずつ確かめます。その場で費用を決め切る必要はありません。
- 持ち物残された物と、ホームの物が残っていないかを確かめます。残された物の引き取りの期限も、ここで伝えます。
- 壁と天井入居のときの写真と並べ、新しい傷や汚れを指さしで確かめます。経年や通常の損耗はホームの負担になることも伝えます。
- 床へこみ・割れ・しみの場所を、写真の番号と一緒に書きます。部分で直すか張り替えるかは、見積のあとに決まります。
- 建具と水回り扉の開け閉め、水栓、トイレ、洗面台を動かして確かめます。寿命による故障は、ホームの負担です。
- 設備と鍵エアコン・照明・呼び出しのボタンの動きと、鍵の本数を確かめます。鍵をなくしていれば、交換の費用がかかります。
- 署名確かめた傷みの一覧に、職員とご家族が署名します。精算書を出す時期も、ここで伝えます。
立ち会いの場では、傷みの場所と程度を確かめるところまでにとどめます。負担の区分と金額は、見積が出てから、年数の割り引きも計算したうえで精算書にします。その場で「これは全部ご負担です」と言ってしまうと、あとで取り消しにくくなります。
亡くなっての退去では、ご家族が気持ちの整理をつける前に、立ち会いをお願いすることになります。日程はご家族の都合を先に聞き、写真を送って確かめてもらう方法も選べるようにしておきます。荷物の引き取りが済むまでは工事に入れないため、明け渡しの期限と残された物の扱いを、入居のときに説明しておきます。
精算書の根拠になる見積は、「一式」ではなく、場所ごと・㎡ごとの内訳で出してもらいます。一式の見積を分けてもらう方法と、1社の見積が妥当かを確かめる方法は「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できますにまとめています。
退去から次の入居までは、負担を決める流れと工事の流れを並べます
空室の期間を短くするには、負担を決める話し合いが終わるのを待たずに、工事の準備を進めます。負担の区分は写真と見積で後から決められるので、立ち会いが済んだら、業者の現地確認と見積の依頼を同じ週のうちに進めます。
図5 負担の区分を決める流れと、工事の流れを並べて進める。
退去から次の入居までの、日数の目安と担当| 段階 | 日数の目安 | 担当 | 遅れやすいところ |
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| 退去の連絡 | 当日 | 生活相談員・事務 | 業者への連絡が、立ち会いのあとに回される |
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| 立ち会いと写真 | 退去の日 | 職員とご家族 | ご家族の日程がそろわない |
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| 見積と負担の区分 | 2〜5日 | 事務と業者 | 見積が「一式」で、区分ができない |
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| 工事 | 2〜7日 | 業者 | 修繕と改修で業者が分かれ、日程が重ならない |
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| 清掃と点検 | 1〜2日 | 清掃の業者と職員 | 設備の動きを確かめ忘れる |
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| 精算書 | 契約で決めた期日(1か月以内など) | 事務 | 張り替えた日の記録がなく、年数の割り引きが出せない |
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日数は、居室の広さや工事の中身、業者の空き具合で前後します。壁紙と床の張り替えと清掃が中心なら、退去から1〜2週間ほどで次の入居の準備が整うのが目安です。年度末や、退去が重なる時期は、業者の予定が埋まりやすくなります。
原状回復の工事は、外に任せる範囲を決め、何日で仕上がるかで外注先を選びます。その考え方は有料老人ホームの営繕は、居室の回転と共用部で外注の範囲を決めますにまとめています。いつもの業者の予定が埋まっているときは、ほかの頼み先にも声をかけられるようにしておきます。窓口は、フォームとLINEで24時間ご相談を受け付けていて、1回のご依頼で最大3社の見積をそろえられます。
こういうサービスは初めてだったので正直どうかなと思っていたのですが、修繕したい場所と状況を伝えるだけで相談できたので、思っていたより簡単でした。
ご利用者の声 東京都内・介護施設/施設管理・営繕担当
取材にもとづき掲載しています(施設名は非公開)。内容はご本人の申告によるもので、個人の感想です。
空室の期間は、改修を入れやすい時期です
居室が空いている間は、入居者の方がいるときには入れにくい工事ができます。音やほこりが出る工事、数日かかる工事、設備を止める工事は、空室のうちに済ませると、次の入居者の方の暮らしを止めずに済みます。費用はホームの負担なので、退去の予定が見えた段階で、何を入れるかを決めておきます。
空室のうちに入れやすい改修と、目安| 改修 | 費用の目安 | 日数の目安 | ねらい |
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| 手すりの追加 | 1か所1万〜5万円 | 1〜5日 | トイレや入口での立ち座りを支える |
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| 照明の交換 | 5,000円〜3万円 | 即日〜3日 | 夜間の足元を明るくする |
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| エアコンの交換(1台) | 20万〜60万円 | 半日〜3日 | 寿命が近い機器を、入居中に止めない |
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| 床をすべりにくい材料に | 居室の広さと材料で変わる | 1〜3日 | 転倒を減らし、車椅子でも動きやすく |
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| 扉を引き戸に替える | 扉の種類と壁の工事で変わる | 2〜5日 | 車椅子での出入りを楽にする |
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金額は当窓口の目安で、建物の状態、地域、時期で変わります。改修は資本的支出になることがあるので、見積は修繕の行と分けてもらいます。改修を翌年度の予算に入れるときの組み方は修繕の予算は、前の年の秋から3つの区分で組みますにあります。手すりや段差など、バリアフリーの改修に関わる基準はバリアフリー改修は、介護保険・バリアフリー法・建築基準法で決まりますに書いています。
退去が年に何件あるかが分かっていれば、改修の費用も年間で見込めます。たとえば、年に8件の退去があるホームで、退去のたびに手すりを1か所足すなら、年8万〜40万円の予算になります。全室を一度に改修するより、空室のたびに少しずつ入れるほうが、入居者の方の暮らしへの影響は小さく済みます。
モデルケース:退去の精算で、問い合わせが続いた住宅型有料老人ホーム
モデルケース:定員42名の住宅型有料老人ホーム
精算書への問い合わせが、年10件ほどから2件に
変わったこと(結果)
負担の分け方を契約書の別紙の表にし、入居と退去の写真を同じ角度で撮るようにしました。すると、退去の精算書についてのご家族からの問い合わせが、年10件ほどから2件に減りました。立ち会いにかかる時間は、1回1時間ほどから30分ほどになりました。精算書を出すまでの日数も、退去から3週間ほどから10日ほどに縮みました。
背景と、困っていたこと
このホームでは、年に12件ほどの退去がありました。精算書は事務長が作っていましたが、負担の線は担当者の判断に任されていました。壁紙の張り替えを全額で載せる月もあれば、まったく載せない月もありました。入居のときの写真は残っておらず、「前からあった傷だ」と言われると、説明のしようがありませんでした。事務長は、ご家族への説明と業者とのやり取りで、退去のたびに半日ほどを使っていました。
決めたこと
ホームは、ガイドラインの考え方をもとに場所ごとの負担の表を作り、新しく入居する方の契約書の別紙にしました。すでに入居している方の居室は、点検で入る機会に写真を撮り、ご家族に写しを渡しました。見積は修繕と改修の行を分けて出してもらい、改修は年度の予算に回すことにしました。いちばん迷ったのは、清掃の費用を特約にするかどうかでした。金額の目安を示せないうちは特約にしないと決め、清掃はホームの負担のままにしました。
進めてみて分かったこと
入居中の方の居室の写真をそろえるのに、半年ほどかかりました。それでも、写真がそろった居室から順に、退去の話し合いが短くなっていきました。