夜間の電話は、誰の携帯に鳴っているか
多くの介護施設では、夜間に設備のトラブルが起きると、夜勤の職員が事務長や施設長、営繕の担当者の携帯に電話をかけます。電話を受けた人は、自宅で状況を聞き取り、業者に連絡するか、朝まで待つかを決め、必要なら施設に駆けつけます。
この形は、受ける人が少ないうちは回ります。けれど、受ける人が休みの日も、体調の悪い日も、旅行中も電話は鳴ります。何年も続くと、受ける人の負担が大きくなり、その人がいなくなったときに、夜間の対応が回らなくなります。営繕が特定の人に集まる仕組みは、営繕担当者が足りないときは、増やす前に時間を測りますでも取り上げています。
図1 夜間の設備トラブルの電話の流れ。今の形と、組み替えた形。
夜間の電話が事務長に集まる理由は、事務長がいちばん詳しいからだけではありません。夜勤の職員が、どこまで自分で判断してよいか、誰に連絡すればよいかが決まっていないことが大きいのです。判断の線を決め、受付の先を決めると、事務長の携帯が夜中に鳴る回数をはっきり減らせます。
夜間に起きやすい設備のトラブル
夜間に起きる設備のトラブルは、昼間と比べて数は少ないものの、職員の数が限られる中で対応しなければなりません。どんなトラブルが多いかを知っておくと、判断の線を決めやすくなります。
夜間は職員の数が少なく、1人で1つのフロアを見ていることもあります。設備のトラブルに手を取られると、その間、入居者の方の見守りが手薄になります。夜間の設備のトラブルへの備えは、設備のためだけでなく、入居者の方の見守りを守るためでもあります。
夜間のトラブルの電話の中には、朝になってから連絡すれば足りるものも多く含まれています。照明が1つ切れた、洗面台の水の出が悪い、扉が少し閉まりにくい、といったものです。これらを朝まで待つと決めておくだけで、夜中に鳴る電話はかなり減ります。
夜勤の判断を、3段階に分ける
夜勤の職員が迷わないように、設備のトラブルを3段階に分けて、それぞれの動き方を決めておきます。判断の基準は、入居者の方の安全と、建物や設備への被害がどこまで広がるかの2つです。
夜勤の判断の3段階| 段階 | 当てはまるもの | 動き方 |
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| ① すぐ外へ連絡 | 水が止まらない、電気に危険がある、火災や煙、エレベーターの閉じ込め | 119番や受付先・業者にすぐ連絡。施設長には後で報告 |
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| ② 施設長に相談 | 空調が止まり室温が上がる・下がる、ナースコールが一部使えない、費用のかかる呼び出し | 施設長(当番)に電話して決める |
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| ③ 朝まで待つ | 照明が1つ切れた、水の出が弱い、扉が閉まりにくい、危険のない不具合 | 書き込む紙に書いて、朝に報告 |
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図2 夜勤の職員の判断の分かれ目。
迷ったときは、上の段に寄せて判断するように伝えておきます。朝まで待てるか迷ったら施設長に相談する、施設長に相談するか迷ったら外に連絡する、という形です。結果として呼ばなくてよかったとしても、夜勤の職員が責められないことを、施設長からはっきり伝えておくことが大切です。
火災や煙、ガスのにおい、閉じ込めといった命に関わることは、施設長に相談するより先に、119番や専門の窓口に連絡します。夜勤の職員が「上の人に聞いてから」と迷って時間を失わないように、紙にはっきり書いておきます。
夜勤の職員に、任せてよいこと
判断の3段階を決めるときに大切なのは、夜勤の職員に「任せてよい範囲」をはっきり伝えることです。任せる範囲があいまいだと、夜勤の職員は責任を負うのが心配になり、結局、すべてを事務長に電話することになります。
たとえば、「水が止まらないときは、止水栓を閉め、紙に書いてある業者に電話してよい。費用のことは気にしなくてよい」と書いておけば、夜勤の職員は迷わずに動けます。費用のかかる判断は施設長に回す、という線と組み合わせると、任せる範囲と相談する範囲がはっきりします。設備の管理を職種ごとに分ける考え方は、設備の管理は6つの役割に分け、職種と時間帯で受け持ちますにまとめています。
図3 夜勤の職員に任せる範囲の例。
受付と一次の判断を、外に出す形
判断の3段階を決めたうえで、夜間の受付と一次の判断を、施設の外に出す形もあります。夜勤の職員が電話をかける先を、事務長の携帯から、24時間の受付先に変えるのです。受付先は、状況を聞き取り、業者を手配し、朝に施設に報告します。
夜間の受付を外に出す形| 形 | 中身 | 向いている施設 |
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| 警備会社の駆けつけ | 機械警備の契約に、設備の異常の受付や駆けつけが含まれることがある | すでに機械警備を入れている施設 |
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| 保守契約の夜間受付 | 空調やエレベーターなど、機器ごとの保守会社が夜間も受け付ける | 止まると困る機器の保守契約がある施設 |
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| 24時間の受付の窓口 | 設備の分野を問わず受け付け、業者を手配する | 業者がばらばらで、受付を一本にしたい施設 |
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| 法人本部の当番 | 複数の施設を持つ法人で、本部の当番が受ける | 施設の数が多い法人 |
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受付先に夜間の電話を任せるときは、施設の基本の情報を前もって渡しておきます。施設の住所と入口、夜間に開いている出入口、駐車場所、主な設備の場所と型番、止水栓と分電盤の場所、施設長の連絡先です。これがそろっていると、受付先は夜勤の職員から短い説明を聞くだけで、業者に正確に伝えられます。
どの形でも、受付先が業者を手配できる範囲と、施設が判断しなければならない範囲を、前もって決めておきます。受付先に任せきりにすると、夜中に高い費用の作業が始まってしまうこともあるため、「この金額までは手配してよい」「これより大きい判断は施設長に電話」と決めておきます。
緊急の対応だけを、切り出して頼む
夜間の受付を外に出すといっても、営繕の仕事をすべて外に出す必要はありません。昼間の修理の手配や、ふだん付き合いのある業者とのやり取りは、これまでどおり施設で続け、夜間と休日の緊急の受付だけを切り出して頼む、という形もあります。
切り出す範囲が小さいほど、職員への説明も少なく始めやすく、費用も抑えられます。まず夜間だけを外に出し、うまく回るようなら休日の昼間にも広げる、という順番で進める施設もあります。休日の業者の決め方は、土日祝に修理を頼める業者は、平日のうちに決めておきますにまとめています。設備の故障をまとめて頼む形の比べ方は、介護施設の設備の故障を、まとめて頼む形は3つありますにまとめています。
図4 外に頼む範囲を、小さく始めて広げる順番。
外に出しても、施設に残る手当て
受付を外に出しても、業者が施設に着くまでの手当ては、施設の職員がすることになります。夜間は業者が着くまでに時間がかかることもあるため、その間にできることを、夜勤の職員が分かるようにしておきます。
業者が着くまでに、施設でする手当て| トラブル | 手当て |
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| 水漏れ | 止水栓を閉める、電気の機器から水を離す、拭き取る |
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| 停電・ブレーカー | 落ちたブレーカーを1回だけ上げる。また落ちたら上げない |
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| 空調 | 室温を測る、毛布や扇風機を用意する、部屋を移る |
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| ナースコール | 見回りを増やす、代わりの呼び出しを置く |
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| 火災報知器 | 現場を確かめる。火災でなければ受信機の音を止める |
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止水栓の場所、分電盤の場所、受信機の場所は、夜勤の職員が暗い中でも分かるようにしておきます。年に一度、昼間に夜勤の職員と一緒に、止水栓と分電盤の場所を確かめておくと、いざというときに迷いません。
地域によって、動ける速さが違う
夜間に業者がどのくらいで来られるかは、地域で大きく違います。都市部では1時間ほどで来られることがあっても、離れた地域では数時間かかることや、夜間は来られず朝になることもあります。
夜間の受付を外に出しても、受付先の手配できる業者が施設の近くにいなければ、駆けつけは遅くなります。受付先を決めるときは、施設のある地域で、夜間にどのくらいで来られるかを、具体的に聞いておきます。来られるまでの時間が長い地域では、施設に残る手当ての準備を、より厚くしておきます。雪の多い地域の冬は、さらに時間を見込んでおきます。
翌朝まで、どう持たせるか
夜間に業者が来られない、来ても部品がなく直らない、ということもあります。その場合は、翌朝まで入居者の方の安全を保つ手当てを続け、朝いちばんに業者と手配を確かめます。
- 安全を保つ止水、ブレーカーを切ったまま、見回りの回数を増やすなどで、被害が広がらないようにします。
- 記録を続ける室温、水の量、入居者の方の様子を、時刻と一緒に記録します。
- 朝の引き継ぎ夜勤から日勤へ、何が起きて何をしたかを引き継ぎます。
- 朝いちばんに手配受付先か業者に、朝いちばんで修理の手配を確かめます。
朝の引き継ぎで、夜間に何が起きたかを日勤の職員と施設長が知ることが大切です。夜間の出来事が朝に伝わらないと、同じトラブルが次の夜にまた起きることがあります。引き継ぎの紙に、設備の欄を1行設けておくと伝え漏れを防げます。
モデルケース:事務長の携帯が鳴る回数を減らした施設
モデルケース:定員80名の特別養護老人ホーム
夜間の設備の電話が、事務長の携帯に月に4〜5回鳴っていた
変わったこと(結果)
判断の3段階を決め、夜間の受付を外に出してから半年で、事務長の携帯に夜間の設備の電話がかかる回数は、月に4〜5回から、月に1回あるかないかに減りました。事務長が夜中に施設に駆けつけることも、半年で1回だけになりました。
背景と、困っていたこと
この施設では、夜勤の職員が設備のことで迷うと、すべて事務長の携帯に電話をしていました。事務長が半年の電話を数えてみると、その半分ほどは、照明が1つ切れた、扉が閉まりにくいといった、朝まで待てるものでした。
その後に決めたこと
施設は、夜勤の判断の3段階を1枚の紙にし、夜勤の詰所に貼りました。すぐ外に連絡するものは受付先に電話し、費用のかかる判断は当番の施設長に回すことにしました。朝まで待つものは書き込む紙に書き、朝の引き継ぎで報告する決まりにしました。