定額にできるのは、量が前もって読める仕事です
営繕を定額で契約するとき、月額にできるのは、量が前もって読める仕事です。決まった日の巡回、見回りと簡単な点検、不具合の受付、記録と報告は、回数と時間を決められるので、業者は手間を見積もれます。いっぽう、部品を替える修理や設備の更新は、件数も金額も前もって読めないため、定額にしにくい仕事です。
営繕の仕事を、定額にできるか| 仕事 | 定額にできるか | 理由 |
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| 決まった日の巡回 | できる | 回数と時間が決まっている |
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| 見回りと簡単な点検 | できる | 見る場所と項目を決められる |
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| 不具合の受付と手配 | できる | 受付の時間と体制を決められる |
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| 記録と報告 | できる | 様式と頻度を決められる |
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| 消耗品の交換(ランプ・フィルター) | 条件つきでできる | 数と時期がおおよそ読める。部品代は別にすることが多い |
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| 小さな修理(調整・締め直し) | 条件つきでできる | 1件30分以内などの線を引けば読める |
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| 部品を替える修理 | しにくい | 件数も部品の値段も前もって読めない |
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| 設備の更新・大きな工事 | できない | 1件ごとに中身と金額が大きく違う |
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図1 回数と時間が読める仕事は定額に、読めない修理は別に精算する。
表の「条件つきでできる」は、線を引けば定額に入れられる仕事です。たとえば「1件30分以内の調整は月額に含む」と決めれば、業者はおおよその手間を読めます。線の引き方は、このあとの節で書きます。
修理まで定額にしにくいのは、3つが読めないからです
修理そのものを定額にしにくいのは、前もって読めないものが3つあるからです。何件出るか、部品がいくらか、1件に何時間かかるか、の3つです。
図2 件数・部品・時間が読めないため、修理は定額にしにくい。
件数は、季節や建物の年数で変わります。部品は、安い消耗品もあれば、メーカーの専用部品のように高いものもあります。時間は、開けてみるまで分からないことがあります。壁の中の配管の水漏れのように、原因を探すだけで半日かかる修理もあります。
読めないものを月額に含めるとき、業者が取れる手は3つです。読めない分を見込んで月額を上乗せする、対象外の作業を増やして範囲を狭く書く、1件や1か月の上限を付ける、のどれかです。どれを選んでも、施設が思い描く「何でも直してもらえる定額」にはなりません。
修理込みの定額で、業者が取る3つの手| 業者の手 | 契約書での見え方 | 施設が確かめること |
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| 上乗せする | 月額が高い | 1年の件数で割ると、1件あたりが都度より高くないか |
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| 範囲を狭く書く | 対象外の一覧が長い | よく出る修理が、対象外に入っていないか |
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| 上限を付ける | 「月何件まで」「1件いくらまで」 | 上限を超えた分の単価はいくらか |
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小さな修理が業者にとって割に合いにくい理由は、職人の手間を1日や半日の単位で数えることにもあります。この単位の考え方は小さい工事が断られるのは、1人工という単位のせいですで書いています。
定額で買っているのは、来てもらえる枠と手間です
定額の月額で施設が買っているのは、修理そのものより、決まった日に来てもらえる枠と、受付・記録の手間です。職人の予定をあらかじめ押さえてもらうので、急がない修理が後回しにされにくくなります。
定額で買っているもの| 買っているもの | 施設にとっての値打ち | 確かめ方 |
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| 来てもらえる枠 | 決まった日に、決まった時間だけ職人が来る | 巡回の日と時間、人数が契約に書いてあるか |
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| 受付の手間 | 修理の話を1か所で受けてもらえる | 受付の時間と方法(電話・メール・一覧) |
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| 記録と報告 | 直した内容と件数が毎月残る | 報告の様式と期限 |
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| 優先の扱い | 急ぎのとき、先に動いてもらえる | 急ぎのときに来られるまでの目安 |
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反対に、定額を払っているのに、買っているはずのものが届いていないこともあります。巡回の日に来てもらえない、受付が担当者の携帯だけ、報告が届かない、という状態です。月額が高いか安いかより先に、この4つが契約に書かれているかを確かめます。
優先の扱いは、言葉だけで終わりやすい項目です。「優先して対応します」の一言で終わらせません。平日の日中なら何時間以内に連絡を返し、いつまでに来るのかを、目安でもよいので書いてもらいます。
定額の料金は、人の時間・移動・事務・予備でできています
業者が月額を決めるときの中身は、おおむね4つです。巡回する人の時間、施設までの移動、受付や報告の事務、そして読めない分のための予備です。
定額の月額の中身(組み立ての考え方)| 中身 | 数え方 | 月1回・職人1人1日の巡回なら |
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| 人の時間 | 人工×回数 | 1人工×月1回 |
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| 移動 | 1回ごとの移動の時間と車 | 往復の時間と車の費用×月1回 |
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| 事務 | 受付・報告書づくり・請求 | 月に数時間分 |
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| 予備 | 読めない分の上乗せ | 修理を含めるほど大きくなる |
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このうち、施設と業者のあいだでいちばん見えにくいのが予備です。修理まで定額に含めるほど読めない分が増え、予備は大きくなります。月額の中身を4つに分けて説明してもらうと、予備がどれくらい入っているかの見当がつきます。人工の物差しと料金の4つの形は営繕の外注費は、4つの料金の形で見え方が変わりますにまとめています。
契約の性質も違います。巡回や受付のように決まった事務を任せるのは、民法でいう準委任に近い約束です。修理は、直すという仕事の完成に対して払う請負です。性質の違う2つを1つの月額にまとめると、何に対して払っているのかが見えにくくなります。代行の契約の形と、請負と準委任の違いは修繕管理の代行は、誰の名前で発注するかで責任が変わりますで書いています。
定額にするかは、割り算で決めます
修理まで含めた定額の提案を受けたときは、割り算で判断できます。定額の年額を、前の年の件数で割り、1件あたりの額を出します。その額を、都度頼んだときの1件あたりと比べます。
図3 都度の1件あたりと定額の1件あたりを比べ、職員の手間の差も加えて決める。
割り算の例(数字は計算のための例)| 項目 | 都度頼む | 修理込みの定額 | 巡回は定額・修理は精算 |
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| 1年の件数 | 84件 | 84件 | 84件 |
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| 1年の費用 | 84件×1万8,000円=151万2,000円 | 月14万円×12か月=168万円 | 月5万円×12か月+84件×1万円=144万円 |
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| 1件あたり | 1万8,000円 | 2万円 | 約1万7,100円 |
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| 施設の手間 | 修理のたびに電話と見積の承認 | 月1回の報告を読む | 月1回の一覧の送付と、線を超えた分の承認 |
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数字は計算のための例です。1件あたりの額は、自分の施設の前の年の請求書から出します。
この例では、修理込みの定額は、都度頼むより1件あたりが高くなっています。読めない分の予備が入るからです。巡回を定額にした形の修理が1件1万円と安いのは、出張費と最低料金が巡回の額の中にまとまるためです。
件数が前の年より大きく増える年には、修理込みの定額のほうが安くなることもあります。件数が年によって大きく動く施設では、多い年と少ない年の両方で割り算をしてみます。
割り算には、お金に出ない手間の差も足して考えます。都度頼む形では、修理のたびに業者を探し、電話をかけ、見積を承認する手間が施設に残ります。1件あたりの額が少し高くても、この手間が減るなら定額を選ぶ、という判断もあります。定期の巡回の頻度と範囲の決め方は定期の営繕契約は、頻度・範囲・費用の順に決めますにまとめています。
定額の範囲は、4つの線で決めます
定額の範囲を決めるときは、「何でも」とせず、4つの線を引きます。作業の時間、部品の金額、件数、分野の4つです。線の内側は月額で、外側は単価表や見積で精算します。
図4 4つの線の内側は月額、外側は単価表か見積で精算する。
4つの線の決め方と、外側の精算| 線 | 決め方 | 線の外側の精算 |
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| 作業の時間 | 1件の作業が何分までか | 超えた時間を、人工の単価で精算 |
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| 部品の金額 | 1件の部品代がいくらまでか | 超えた分を、実費か見積で精算 |
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| 件数 | 1か月に何件までか | 超えた件数を、1件いくらで精算 |
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| 分野 | どの分野の修理までか | 分野の外は、別の業者か見積で頼む |
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線の数字は、前の年の修理の記録から決めます。たとえば前の年の小さな修理の多くが30分以内で終わっていたなら、30分が線の目安になります。線を高くするほど月額は上がり、低くするほど精算の件数が増えます。
線の外側の精算のために、よく出る修理の単価表を契約に付けてもらいます。戸車の交換1か所いくら、パッキンの交換1か所いくら、と決めておくと、線を超えた修理もそのつど見積を取らずに進められます。「一式」の見積を行に分けてもらう頼み方は「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できますにまとめています。
施設から見た、定額の良いところと気をつけること
定額には、施設にとって良いところと、気をつけることの両方があります。どちらも知ったうえで、範囲を決めます。
- 予算が平らになる毎月の額が決まるので、予算を組みやすくなります。
- 後回しにされにくい決まった日に、職人の予定を押さえてもらえます。
- 記録が残る毎月の報告で、件数と中身がそろいます。
- 使わない月も払う修理が少ない月も、同じ額を払います。
- 範囲の外は別の請求線の外側は、月額とは別に請求が届きます。
- 見直しを忘れやすい自動で更新されると、件数が減っても額が変わりません。
予算の面では、定額の分を毎年決まった額として組めるので、法人本部に説明しやすくなります。線の外側の精算は年によって動くので、前の年の実績をもとに別の行で組みます。修繕の予算の組み方は修繕の予算は、前の年の秋から3つの区分で組みますにまとめています。
業者の側の事情を知ると、話が早くなります
業者の側から見ると、定額には良いところと怖いところがあります。良いところは、毎月の仕事が決まり、職人の予定を組みやすいことです。怖いところは、修理が思ったより多く出て、手間と部品の代金が月額を上回ることです。
この怖さがあるので、業者は修理込みの定額を出すとき、予備を厚くするか、範囲を狭くします。施設の側から「巡回と受付は月額、修理は単価表で」と分けて頼むと、業者は予備を薄くでき、月額を下げやすくなります。
話し合いのときは、前の年の件数と修理の中身を業者に見せます。件数が分かると、業者は読めない部分が減り、予備を小さくできます。巡回の1日でどれだけの件数を回れるかの考え方は小さな修繕は、月1回の巡回で1日7〜10件を直せますにまとめています。
定額に向かない施設もあります
定額が合わない施設もあります。次のような施設では、都度頼む形や、件数ごとの単価表のほうが、年間の額も手間も小さくなることがあります。
定額に向かない施設と、合う頼み方| 施設の様子 | 定額に向かない理由 | 合う頼み方 |
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| 修理が年に数十件ほど | 月額を払っても、直すものがない月が出る | 単価表を決めて、都度かまとめて頼む |
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| 建ててから年数が浅い | 保証の期間で直る修理が多い | 保証の窓口と、都度の依頼 |
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| 修理の分野がばらばら | 1社の定額で受けられる分野が限られる | 分野ごとの業者か、相談ごとに窓口へ |
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| 大きな改修の前の年 | 改修で直る場所に、定額の手間をかけることになる | 改修の範囲が決まるまで都度で頼む |
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| 保守契約の設備が多い | 設備の修理は保守の会社が受け持つ | 保守契約と、建物の小さな修理の単価表 |
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図5 件数が少ない施設は都度、多い施設は巡回と受付だけを定額にする。
設備の保守契約で部品の交換まで含む形は、修理を定額に含める形の1つです。メーカーや保守の会社が、その設備の故障の出方と部品の値段を知っているから成り立ちます。それでも、対象外の部品や事故による修理は外れています。保守契約の形の違いはメンテナンス業者と修繕業者は、別のものですで整理しています。
ビルメンテナンス(施設管理)の委託も、月額は点検・清掃・警備の対価で、修理は別の費用になりやすい契約です。委託費の決まり方と修理の境目はビルメンテナンスの委託費と、修理の費用は分けて見ますにまとめています。
件数が少なく定額が合わない施設は、修理が出たときにそのつど相談できる先を、1つ決めておくと困りません。
「こんな小さな修繕でも相談していいのかな」と最初は思いましたが、実際に相談してみると、内容を伝えるだけで話が進むので非常に助かりました。
ご利用者の声 埼玉県内・介護老人保健施設/事務長
取材にもとづき掲載しています(施設名は非公開)。内容はご本人の申告によるもので、個人の感想です。
モデルケース:修理込みの定額の提案を、巡回と修理に分け直した住宅型有料
モデルケース:定員45名の住宅型有料老人ホーム
施設長の業者とのやり取りが、月8回ほどから2〜3回になった
変わったこと(結果)
修理込みの定額の提案を、巡回・受付・記録の定額と、修理の精算に分け直しました。施設長が修理のことで業者とやり取りする回数は、月に8回ほどから2〜3回になりました。残ったのは、巡回の前の一覧の送付と、線を超えた修理の承認です。修理の費用は、毎月の報告で1件ずつ見えるようになりました。
1年の合計は、修理込みの提案の年額より2割ほど小さく、都度頼んでいたころより2割ほど大きくなりました。施設長は、増えた分を、電話と見積の手間が減ったことと、直るまでの日数が縮んだことで本部に説明しています。
背景と、困っていたこと
このホームでは、修理のたびに施設長が近くの業者に電話していました。ある会社から「月13万円で、小さな修理は何でも直します」という提案を受けました。予算が平らになるのは魅力でした。ただ、契約書の案を読むと、部品代は別、1件1時間を超える作業は別、夜間は別と、対象外の一覧が長く続いていました。
決めたこと
施設長は、前の年の請求書から修理を数えました。小さな修理が66件で、払った額は合わせて約99万円、1件あたり1万5,000円でした。提案の年額156万円を66件で割ると、1件あたり約2万3,600円になります。
そこで、月1回の巡回と受付と記録だけを、月4万5,000円の定額にしました。修理は単価表と部品の実費で精算する形にして、施設の側から提案し直しました。1件2万円を超える修理は、先に見積を出してもらって施設長が承認します。件数が増えた年に精算が膨らむことが気がかりでしたが、毎月の報告で件数を見て、半年で見直すことを条件にしました。
進めてみて分かったこと
一覧が少ない月もあり、その月は窓や網戸の見回りを頼むようにしました。単価表にない修理が年に数件出るので、出るたびに単価表に足しています。