「介護施設専門」に、資格や登録はありません
建設業には、建築一式、電気、管(給排水・空調)、内装仕上などの許可の区分があります。電気工事士や給水装置工事主任技術者といった資格もあります。けれども、「介護施設専門」という許可や資格、国の登録はありません。会社が自らそう名乗っているかどうか、というだけです。
名乗ること自体が悪いわけではありません。介護施設の仕事を長く続けてきた会社が、その経験を伝えるために使っていることも多いからです。ただ、言葉だけでは中身が分かりません。施設にとって大事なのは、入居者の方が暮らしている建物で、食事や入浴、睡眠を止めずに工事ができるかどうかです。
検索で「介護施設 営繕 業者」と調べると、施工会社、設備の会社、紹介や手配のサービスなど、立場の違う会社が同じように並びます。どの会社も「介護施設に強い」と書いていると、違いが見えにくくなります。この記事では、言葉ではなく、会社の型と段取りで見分ける方法をまとめます。
図1 「介護施設専門」という言葉から分かることと、確かめること。
「専門」を名乗る会社は、3つの型に分かれます
介護施設専門をうたう会社を調べていくと、だいたい3つの型に分かれます。どの型がよいかは、施設が頼みたい工事の中身で変わります。
「介護施設専門」を名乗る会社の3つの型| 型 | 中身 | 向いていること | 気をつけること |
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| ① 施工会社型 | 介護施設の工事を多く受けている工務店・設備会社 | 自社で直せる分野の修理や改修 | 得意な分野の外は、別の会社に回すことがある |
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| ② 設備の専門会社型 | 特殊浴槽やナースコールなど、福祉・医療の設備に絞った会社 | その設備の修理と保守 | 建物や他の設備は受け持たない |
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| ③ 窓口型 | 介護施設の修繕の相談を受け、合う施工業者を手配する会社 | 分野をまたぐ相談、業者探し、見積の比較 | 実際に施工する会社がどこかを確かめる |
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図2 「介護施設専門」を名乗る会社の型と、向いている相談。
業態ごとの守備範囲と単価の考え方は修理や営繕の頼み先は、6つの業態から工事ごとに選びますにまとめています。窓口型を使うときは、その窓口が自社で施工するのか、ほかの施工業者に頼むのか、頼む先の会社がどこかを、契約の前に聞いておくと安心です。
どの型に頼むかは、相談の中身で決めます
3つの型のどれに頼むかは、施設が相談したい中身で決まります。1つの分野の修理なら、その分野を自社で施工する会社に頼むのが早道です。特殊浴槽やナースコールなど決まった設備なら、その設備の専門の会社です。分野がいくつもまたがる、どこに頼めばよいか分からない、見積を同じ条件でそろえたい、というときは、窓口型が向いています。
図3 相談の中身で、頼む会社の型を選ぶ。
型ごとに、聞いておくと安心なこと| 型 | 聞いておくこと |
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| 施工会社型 | 自社で直せる分野と、ほかの会社に回す分野はどれか |
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| 設備の専門会社型 | 部品の手配の早さと、保守の契約の中身 |
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| 窓口型 | 実際に施工する会社はどこか、窓口の手数料や費用の仕組み |
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どの型でも、1社だけに決める必要はありません。日常の小さな修理は近くの施工会社、特定の設備は専門の会社、分野をまたぐ相談は窓口、というように使い分けている施設も多くあります。
慣れている会社が、当たり前にしていること
介護施設の工事に慣れた会社には、毎回当たり前のようにしていることがあります。逆に言えば、これが自然にできるかどうかが、「専門」の中身です。
介護施設に慣れた会社が、当たり前にしていること| 場面 | していること |
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| 入館のとき | 受付での記帳、手指の消毒、体調の申告。名札を付ける |
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| 作業の前 | 職員に作業の場所と時間を伝え、入居者の方への声かけの仕方を確かめる |
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| 作業の時間 | 食事・入浴・お昼寝・夜間を避けて、音の出る作業を組む |
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| 作業の場所 | 工具や材料を廊下に置かない。転びやすい所に目印や囲いを付ける |
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| 感染症の流行時 | 施設の方針に合わせて、作業を延ばす・場所を絞るなどの判断をする |
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| 作業のあと | 片付けと清掃、直した内容の写真と報告書を残す |
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どれも特別な技術ではありません。けれども、慣れていない会社では、廊下に脚立を立てたまま休憩に入る、昼食の時間に電動工具を使う、といったことが起きがちです。入居者の方の転倒や、認知症のある方の不安につながるため、最初に確かめておきたいところです。認知症のある方への配慮の具体的な内容は認知症のある方への配慮は、工事の段取りで変化を小さくすることですに、音とほこりの対策は騒音と粉じんは、時間帯だけでなく工法と区画でも減らせますにまとめています。
最初の電話で聞く、6つの質問
慣れているかどうかは、最初の電話や面談で、6つのことを聞くとかなり見えてきます。答えの中身よりも、すぐに具体的な答えが返ってくるかどうかを見ます。
慣れているかを見分ける6つの質問| 質問 | 慣れた会社の答え方の例 |
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| ① 作業の時間帯は、どう決めますか | 「食事と入浴の時間を先に教えてください。その間は音を出しません」 |
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| ② 入居者の方の動線は、どう守りますか | 「通路を半分残して、目印と囲いを付けます」 |
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| ③ 感染症の流行時は、どうしますか | 「施設の方針に合わせて延期や場所の限定を相談します」 |
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| ④ 職員の方とは、どう連絡を取りますか | 「作業の前後に、担当の方へ口頭と紙で伝えます」 |
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| ⑤ ナースコールなど止まると困る設備は、どう扱いますか | 「止める必要があるときは、時間と代わりの手段を先に決めます」 |
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| ⑥ 終わったあと、何を残してくれますか | 「写真付きの報告書と、次に気をつけることを残します」 |
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図4 介護施設に慣れた会社かを見分ける流れ。
「どこの施設でも同じようにやっています」といった答えしか返ってこないときは、施設の事情に合わせた段取りの経験が少ないのかもしれません。反対に、施設のことを質問し返してくる会社は、現場をよく知っていることが多いものです。
許可と保険も、あわせて確かめる
段取りに慣れていても、許可や保険がそろっていなければ、安心して任せられません。1件の工事が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上など)になるときは、その工事の種類の建設業の許可が要ります。許可は、国土交通省の企業情報検索システムで調べられます。
段取りとあわせて確かめること| 項目 | 確かめ方 |
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| 建設業の許可 | 許可の種類と番号を聞き、検索システムで確かめる |
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| 作業に要る資格 | 電気工事士など、作業に合った資格を持つ人が来るか |
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| 賠償の保険 | 工事中の事故や、入居者・建物への損害に備えた保険に入っているか |
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| 介護施設での工事の経験 | 施設の種類と工事の中身を、件数とあわせて聞く |
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許可や工事経歴書を公的な記録で調べる方法は老人ホームの営繕業者は、公的な記録で確かめられますに、実績の中身の確かめ方は実績は、居ながら工事の段取りを見せてもらって確かめますにまとめています。
小さな修理を1件頼んで、確かめる
電話や面談で分かることには限りがあります。いちばん確かなのは、急がない小さな修理を1件頼んでみることです。居室の扉の調整や、水栓の部品の交換など、数時間で終わる仕事で十分です。
- 急がない修理を選ぶ入居者の方の生活に大きく響かない、小さな修理を1件選びます。
- 当日の段取りを見る入館のとき、作業の前の声かけ、工具の置き方、片付けを、職員に見ておいてもらいます。
- 報告を受け取る直した内容、使った部品、次に気をつけることが、写真付きで残るかを見ます。
- 職員に聞く立ち会った職員に、困ったこと、気になったことがなかったかを聞きます。
小さな修理を頼むときも、施設の決まり(入館の手順、作業してよい時間、声かけの仕方)を先に紙で渡しておきます。決まりを伝えたうえで、それを守って動けるかを見ると、慣れの違いがはっきり分かります。
小さな修理の段取りが丁寧な会社は、大きな工事でも同じように動いてくれることが多いものです。反対に、小さな修理で気になることがあれば、大きな工事を任せる前に話し合うか、別の会社を考えます。
長く付き合えるかも、見ておきます
介護施設の営繕は、一度の工事で終わりではなく、何年も続く付き合いになります。担当の人が替わっても、施設の事情を引き継いでもらえるかは、最初に聞いておきたい点です。
長く付き合えるかを見る点| 見る点 | 確かめ方 |
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| 引き継ぎ | 担当者が替わったとき、施設の情報をどう引き継ぐか |
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| 記録 | 直した内容の記録を、施設にも渡してくれるか |
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| 断るとき | できない工事を、はっきり「できない」と言ってくれるか |
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できない工事を正直に断ってくれる会社は、かえって信頼できます。できないことを引き受けて、ほかの会社に丸投げしてしまう会社よりも、施設としては判断がしやすくなるからです。
専門の会社に頼むと、高くなるのか
「介護施設専門だから、割高なのでは」と心配されることがあります。実際には、「専門だから」という割増が付くことはあまりありません。費用の差になって表れるのは、段取りの違いです。
段取りの違いが、費用と日数に出る場面| 場面 | 慣れていない場合 | 慣れている場合 |
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| 作業の時間帯 | 当日になって時間を変え、作業が延びる | 時間帯を先に決め、予定どおりに終わる |
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| 養生と片付け | あとから追加の作業になる | 最初の見積に入っている |
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| 止まる設備 | 止めてから困って、やり直しになる | 止める時間と代わりの手段を先に決める |
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| 報告 | 口頭だけで、次の修理に生かせない | 写真付きで残り、次の判断が早くなる |
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同じ工事でも、見積の金額だけで比べると、養生や時間帯の制限の分だけ、慣れた会社の方が高く見えることがあります。比べるときは、同じ条件(時間帯、養生、片付け、報告)を伝えてから見積を取ると、差の理由が見えます。
モデルケース:「専門」の言葉で選んで、困った施設
モデルケース:定員60名の特養
「介護施設専門」と書かれた会社に頼んだが、段取りが合わなかった
変わったこと(結果)
2社目の会社には、最初に6つの質問をして、小さな修理を1件頼んでから任せることにしました。その後の居室の床の張り替えは、食事と入浴の時間を避けた予定どおりに終わり、職員からの苦情もありませんでした。
背景と、困っていたこと
前の会社は、ホームページに「介護施設専門」と書かれていたため、事務長が詳しく聞かずに頼みました。実際には、介護施設での経験は多くなく、昼食の時間に音の大きい作業をしたり、廊下に材料を置いたままにしたりして、職員が何度も声をかけることになりました。
その後に決めたこと
施設は、初めての会社に頼むときは、6つの質問の答えを紙に書いて残し、急がない修理を1件頼んでから大きな工事を任せる、という決まりを作りました。