信頼は、印象ではなく行動で見ます
修繕業者が信頼できるかは、営業の担当者の話しやすさや、会社の大きさ、見積の安さでは分かりません。分かるのは、施設にとって都合の悪いことが起きた場面で、その会社がどう動くかです。印象は最初の1回で決まりますが、行動は何度か頼むうちに少しずつ見えてきます。
印象で見がちなことと、行動で見ること| 印象で見がちなこと | そこから分からないこと | 代わりに見る行動 |
|---|
| 営業の担当者の話しやすさ | 現場の職人が同じように動くか | 作業の当日に、施設の決まりを守って動くか |
|---|
| 会社の大きさ・名前の知られ方 | 施設の担当になる人の動き方 | 担当者が替わったときの引き継ぎ |
|---|
| 見積の安さ | 追加の費用がどう出てくるか | 追加が要るとき、作業の前に相談するか |
|---|
| 事例の写真や実績の数 | うまくいかなかったときの動き方 | 自分たちの不具合を、自分から報告するか |
|---|
| 「何でもできます」という言葉 | できないことを抱え込まないか | できない工事を「できない」と言うか |
|---|
図1 印象は1回で決まるが、行動は何度か頼むうちに見えてくる。
印象がよいことが悪いわけではありません。話しやすい担当者は、施設にとって大きな助けになります。ただ、印象のよさと、困った場面で施設の側に立って動けるかは、別のことです。印象で候補を絞り、行動で決める、という順番にすると迷いが減ります。
実績の数や事例の写真も、印象を作る材料です。数字の中身の聞き方は「実績50件」は、数え方を聞くと中身が見えますにまとめています。実績を見せてもらって確かめる方法は実績は、居ながら工事の段取りを見せてもらって確かめますで書いています。この記事では、日ごろのやり取りの中で見える行動に絞って書きます。
信頼が見える場面は、5つあります
修繕業者の信頼が見える場面は、次の5つです。どれも、会社にとっては目の前の売上が減るか、手間が増える場面です。それでも施設の判断を優先して動けるかを見ます。
信頼が見える5つの場面| 場面 | 信頼できる行動 | 気をつけたい行動 | 出会いやすい時 |
|---|
| 1. できない工事を頼まれたとき | 「うちではできません」と言い、頼み先の見当を伝える | 受けてから、ほかの会社を探す | 最初の相談 |
|---|
| 2. 工事をしなくてよいとき | 調整や部品の交換で済む、様子を見てよい、と言う | 大きな工事や交換だけを勧める | 現地を見たあと |
|---|
| 3. 追加の費用が出そうなとき | 作業の前に、理由と金額を伝えて相談する | 作業を進めてから、請求で知らせる | 作業の途中 |
|---|
| 4. 自分たちの施工に不具合があったとき | 気づいた時点で自分から報告し、直し方を話す | 施設が気づくまで黙っている | 工事のあと |
|---|
| 5. 施設が断ったとき | 理由を聞き、次の機会につなげる | 態度が変わる、急ぎのときに来なくなる | 相見積や提案の結果 |
|---|
図2 どの場面も、目の前の売上より施設の判断を優先できるかを見ている。
5つは、1回の依頼ですべて見えるわけではありません。付き合いの段階ごとに、1つずつ出会います。最初の相談で1つ目、現地を見たあとで2つ目、作業の途中で3つ目、工事のあとで4つ目、相見積の結果を伝えたときに5つ目です。
5つの場面に共通するのは、施設に決める力を残してくれるかどうかです。できないことを先に言う、工事をしない道も示す、追加を決める前に知らせる、不具合を隠さない、断られても関係を保つ。どれも、施設が自分で判断できる材料を、会社の側から差し出す動きです。
場面1:できない工事を「できない」と言えるか
できない工事を「できない」と言える会社は、自社の力をよく知っている会社です。分野の外の工事、資格のない作業、来られない時間帯の対応を、受けずに伝えられるかを見ます。できないことを先に言ってもらえると、施設はその場でほかの頼み先を探し始められます。
「できない」と言える会社の答え方の例| 頼まれたこと | 信頼できる答え方の例 | 気をつけたい答え方の例 |
|---|
| 分野の外の工事 | ナースコールの本体は代理店でないと直せません。配線までなら見られます | 大丈夫です、何とかします |
|---|
| 資格の要る作業 | 冷媒の補充は、登録のある業者に頼んでいます。うちから手配すると2日かかります | うちでやっておきます |
|---|
| 来られない時間帯 | 夜間は来られません。夜に止まったら、保守の契約先に電話してください | 夜でも連絡をもらえれば何とかします |
|---|
| 大きすぎる工事 | この規模の改修は、設計からできる会社のほうが向いています | 全部うちで受けられます |
|---|
見分けるには、相談の中に、その会社の得意な分野から少し外れた話を1つ混ぜてみます。たとえば、建具と水回りが得意な会社に、ナースコールの不具合も聞いてみるのです。「それはうちの分野ではありません」と言えるか、「何とかします」と抱えるかで、その会社の線の引き方が分かります。
「できない」と言われると、頼りない会社に見えるかもしれません。けれども、できないことを抱えた会社に頼むと、受けたあとでほかの会社を探すことになり、直るまでの日数が延びます。介護施設の工事に慣れているかを、段取りで見分ける方法は「介護施設専門」に、資格や登録はありません。慣れているかは、段取りで見分けますにまとめています。
場面2:工事にならない結論を出せるか
工事をしなくてよいときに、そう伝えられる会社は信頼できます。調整や部品の交換で済む、今は様子を見てよい、更新は来年でも間に合う、といった結論は、会社の売上にはなりません。それでも施設のために言えるかを見ます。
工事にならない結論を、聞き出す問い| 施設からの問い | 信頼できる答えの例 | 気をつけたい答えの例 |
|---|
| 直さなかったら、どうなりますか | 半年は使えます。水が漏れ始めたら、すぐ連絡をください | 今すぐ替えないと危ないです(理由の説明がない) |
|---|
| いちばん安く済ませる方法は、何ですか | 部品だけ替える方法があります。ただ、3年ほどでまた出ます | 交換しかありません |
|---|
| 今年と来年に分けられますか | 急ぐのは2か所です。残りは来年の予算でかまいません | 一度にやったほうが得です(内訳がない) |
|---|
問いへの答えに、理由と、いつまで持つかの見込みが入っているかを見ます。「替えたほうがよい」という答えでも、理由と見込みが具体的なら、施設は予算や時期を考えて決められます。反対に、理由のない「今すぐ」は、施設の判断の材料になりません。
特殊浴槽のように、修理か買い替えかで迷いやすい機器の見分け方は特殊浴槽の修理費は、残りの年数で割って比べますで書いています。修理か交換かの理由を説明してもらえると、施設の中でも話し合って決められます。
施設側としては、修理で済むのか、交換したほうがいいのか判断しづらかったのですが、必要な対応について説明してもらえたので、施設長とも相談しながら進めることができました。
ご利用者の声 東京都内・介護施設/事務長
取材にもとづき掲載しています(施設名は非公開)。内容はご本人の申告によるもので、個人の感想です。
場面3:追加の費用を、作業の前に相談するか
追加の費用が出そうなとき、作業の前に手を止めて相談する会社は信頼できます。壁を開けたら配管の傷みが広かった、部品が別のものだった、ということは修繕ではよくあります。大事なのは追加が出ることではなく、施設が決める前に知らせるかどうかです。
図3 左の動きをする会社は、追加が出ても、施設が決める力を残している。
工事の内容や金額を変えるときは、変更の内容を書面に残して取り交わすことが、建設業法で決められています(第19条第2項)。追加の相談のあとに、変更の内容と金額を、紙かメールで受け取れるかもあわせて見ます。
追加の費用の伝え方の違い| 見るところ | 信頼できる会社 | 気をつけたい会社 |
|---|
| 知らせる時 | 作業の前、または追加が分かったその場で | 作業のあと、請求書が届いて初めて |
|---|
| 知らせ方 | 写真を見せて、理由と金額を話す | 口頭で「少し増えます」とだけ言う |
|---|
| 残し方 | 変更の内容と金額を、紙かメールで渡す | 書面がなく、言った言わないになる |
|---|
| 施設の決め方 | 施設が承認してから作業を続ける | 施設の承認を待たずに進める |
|---|
見極めやすくするには、施設の決まりを先に伝えておきます。「一定の金額を超える追加は、作業の前に電話で相談してください」と、最初の依頼のときに紙で渡しておくのです。決まりを伝えたうえで守れるかを見ると、会社の姿勢がはっきり分かります。
問い合わせ・現地調査・見積の段階で、着工後のもめごとの前ぶれを見つける方法は着工後のトラブルは、契約の前の3つの場面に表れますにまとめています。契約書で確かめることは工事の契約書は、追加と事故の扱いから読みますで書いています。
場面4:自分たちの不具合を、自分から報告するか
自分たちの施工の不具合を、施設が気づく前に報告する会社は信頼できます。取り付けの甘さ、作業中に付けた傷、直したはずの所の再発などです。不具合が出ることよりも、それを隠さずに伝え、直し方まで話せるかを見ます。
- 完了の報告に「気になった所」がある直した所のほかに、作業中に気づいた傷みや、次に気をつけることが書かれているか。
- あとから自分で確かめに来る水回りや防水など、時間がたってから分かる工事で、数日後や1か月後に様子を聞いてくるか。
- 傷や汚れを自分から言う作業中に床や壁に付けた傷を、施設が見つける前に伝え、直し方を話すか。
- 保証の範囲を自分から話す不具合が出たとき、保証の範囲で直すのか、費用がかかるのかを、聞かれる前に説明するか。
不具合を報告してきた会社を、すぐに替える必要はありません。むしろ、自分から報告できる会社は、これからも隠さないと考えられます。報告の内容と直し方、直るまでの日数を記録に残し、同じ不具合がくり返されるかを見ます。
反対に、施設が見つけた不具合に「前からありました」「使い方の問題です」とだけ答える会社には、気をつけます。工事の前の写真が残っていれば、どちらの言い分が正しいかを確かめられます。工事の保証の種類と、保証を使う手順は工事の保証は、3つに分けて部位ごとに控えますにまとめています。
場面5:断ったときの態度
相見積で選ばなかったとき、提案を見送ったとき、会社の態度がどう変わるかにも信頼が表れます。理由を聞いて次の機会につなげる会社は、長く付き合える会社です。反対に、急に連絡が遅くなる、急ぎの修理に来なくなる会社は、施設との関係を受注の数でしか見ていないのかもしれません。
断ったあとに見えること| 断ったあとの動き | 読み取れること |
|---|
| 選ばれなかった理由を聞いてくる | 次の見積で、施設の事情に合わせようとしている |
|---|
| 急ぎの修理には、これまでどおり来る | 取引の大小で、施設への対応を変えない |
|---|
| 選ばれた会社の悪口を言う | 比べられることに慣れておらず、関係を損ねやすい |
|---|
| 連絡がつきにくくなる | 施設との関係を、受注の数で見ている |
|---|
断るときの伝え方しだいで、相手の反応も変わります。理由を短く伝え、また相談したいことを添えると、多くの会社は次の機会につなげようとします。それでも態度が大きく変わる会社は、急ぎのときに頼る先から外して考えます。
この場面は、施設が断るまで見えません。日ごろの頼み先でも、年に1回は相見積を取ると、断ったときの態度を確かめる機会になります。断る場面ごとの伝え方と文面は断り方で、次に頼める関係が残るかが決まりますにまとめています。
担当者と会社を、分けて見ます
見えた行動が、担当者の人柄によるものか、会社の仕組みによるものかを分けて見ます。担当者が替わっても続くのは、会社の仕組みのほうです。担当者がよくても、会社の仕組みがなければ、担当者が辞めたときに同じ動きは続きません。
担当者で決まることと、会社の仕組みで決まること| 分かれ目 | 担当者で決まること | 会社の仕組みで決まること |
|---|
| 連絡 | 電話の折り返しの早さ、説明の分かりやすさ | 担当者が休みの日の連絡先、夜間の受付 |
|---|
| 追加の費用 | その場で相談してくれるか | 追加を書面で取り交わす決まりがあるか |
|---|
| 不具合 | 自分から伝えてくれるか | 工事のあとの点検や、保証の決まり |
|---|
| 記録 | メモを残してくれるか | 報告書の様式、写真の残し方 |
|---|
| 引き継ぎ | 後任に施設の事情を話してくれるか | 施設ごとの記録を、会社として持っているか |
|---|
図4 担当者が替わっても続くのは、会社の仕組みのほう。
会社の仕組みは、担当者に「あなたが休みの日は、誰に連絡すればよいですか」「前の担当の方の記録は、どこに残っていますか」と聞くと見えてきます。すぐに答えが返る会社は、担当者が替わっても、施設の事情が引き継がれやすい会社です。
担当者だけが頼りの会社は、その担当者が辞めたときが、付き合いを見直す時期になります。担当者が替わったら、5つの場面を新しい担当者でもう一度見ます。
5つの場面には、付き合いの段階ごとに出会います
5つの場面は、付き合いの段階ごとに順に出会います。最初から大きな工事を任せると、5つを見る前に大きな金額が決まってしまいます。小さな依頼から始めて、段階ごとに場面を1つずつ確かめていくと、無理なく見極められます。
図5 小さな依頼から始めると、5つの場面に順に出会える。
相談から、小さな修理を2〜3件頼むまでのあいだに、5つのうち多くの場面に出会えます。断ったときの態度は、相見積や提案の結果を伝えるときまで見えないことが多いので、焦らずに待ちます。
すべての基準を満たす会社を探すより、施設が譲れない1つを決め、それを行動で確かめるほうが早く決まります。譲れない1つの決め方と、1件試して確かめる方法はすべてを満たす会社はありません。譲れない1つを先に決めますに書いています。
モデルケース:感じのよい会社と、口数の少ない会社で迷ったサ高住
モデルケース:定員40室のサービス付き高齢者向け住宅
請求書で初めて追加の費用を知ることが、なくなった
変わったこと(結果)
日ごろの修理の頼み先を、5つの場面を3か月記録して比べた会社に替えました。替えたあとの半年、請求書で初めて追加の費用を知ることは一度もありませんでした。交換を勧められていた給湯器は、調整と部品の交換で使い続け、120万円ほどの交換の費用を翌年度の予算に回せました。
背景と、困っていたこと
このサ高住では、営業の担当者の感じがよく、見積も安い会社に、小さな修理を1年ほど頼んでいました。ところが、作業のあとに「部品が違ったので」と追加の費用が請求されることが、3か月に3回ありました。給湯器の不調では、すぐの交換を勧められ、120万円ほどの見積が出ていました。
決めたこと
施設長は、5つの場面を書いたチェック表を作り、別の会社にも3か月、小さな修理を頼んで比べることにしました。最初の依頼のときに、「5,000円を超える追加は、作業の前に電話で相談してください」と紙で渡しました。比べた結果、追加を作業の前に相談し、給湯器は調整で使えると伝え、自分で付けた床の傷を自分から報告した会社を、日ごろの頼み先にしました。
進めてみて分かったこと
施設長が迷ったのは、感じのよい担当者との付き合いを減らすことでした。前の会社には、選ばなかった理由を短く伝え、内装の補修は引き続き頼むことにしました。理由を聞いた担当者は、次の見積から、追加が出そうな所とその金額の見込みを書き添えてくるようになりました。