どんな会社がよいかは、施設が譲れない1つで決まります
「介護施設の修繕を頼むなら、どんな会社がいいか」。この問いに、どの施設にも当てはまる答えはありません。よい会社とは、その施設がいちばん困っていることに強い会社です。夜中に給湯が止まって困っている施設と、修繕の予算が足りずに困っている施設とでは、合う会社が違います。
会社を選ぶ基準は、主に次の6つです。言葉のままだと比べにくいので、数で見るとどうなるかも並べておきます。
修繕を頼む会社を選ぶ基準の6つ| 基準 | 中身 | 数で見ると |
|---|
| 到着の早さ | 連絡してから施設に着くまで | 平日の日中・夜間・休日それぞれの時間 |
|---|
| 費用 | 同じ条件での総額と、1年あたりの額 | 見積の総額、出張費、最低料金 |
|---|
| 範囲の広さ | 1社で受けられる分野の数 | 建物・給排水・空調・電気・専用機器のうち何分野か |
|---|
| 分野の深さ | 1つの分野で、原因を突き止めて直す力 | その分野を自社の職人で直すか、部品を持っているか |
|---|
| 記録 | 直したあとに残るもの | 写真・部品の型番・次の目安が、何日で届くか |
|---|
| 説明 | 修理か交換か、なぜその金額かを話せるか | 理由を書面で出せるか |
|---|
図1 6つすべてで最高の会社はまずないので、譲れない1つを先に決める。
6つすべてで最高という会社は、まずありません。だからこそ、施設の状況から「これだけは譲れない」という1つを先に決めます。1つに絞ると、残りの基準で迷う時間が減り、選んだ理由も説明しやすくなります。
なお、譲れない1つを決めるのは、許可や保険など、満たさなければ外す条件で候補を絞ったあとです。外す条件と比べる条件の2段階の選び方は営繕業者は、外す条件と比べる条件を分けて選びますで書いています。
基準どうしは、片方を取ると片方が下がります
すべてを満たす会社がいないのは、基準どうしが引っぱり合っているからです。どれかを取ると、どれかが下がります。会社の力不足というより、仕事の組み立て方の違いです。
基準どうしの引っぱり合い| 取る基準 | 下がりやすい基準 | なぜ下がるか |
|---|
| 到着の早さ | 費用 | 夜間や休日に動ける人と車を待たせておく費用が、単価に乗る |
|---|
| 費用の安さ | 到着の早さ・記録 | 移動や報告書づくりの手間を減らして、安くしている |
|---|
| 範囲の広さ | 分野の深さ | 多くの分野を受けるほど、協力会社に回す分野が増える |
|---|
| 分野の深さ | 範囲の広さ | 1つの分野に絞るほど、ほかの分野は別の会社になる |
|---|
| 1社にまとめる手軽さ | 単価の見えやすさ | 間に入る会社が増えるほど、職人と直接やり取りしにくくなる |
|---|
図2 早さと費用は、片方を取ると片方が下がる。
引っぱり合いを知っておくと、会社の説明の読み方も変わります。「早くて安い」とうたう会社があれば、何を省いて安くしているのかを聞きます。省いているのが報告書なら、記録を重く見る施設には合いません。
1社にまとめると楽になる代わりに手放すものは、ワンストップで楽になる分、3つを手放します。一部は残せますでくわしく書いています。
施設の状況から、譲れない1つを選びます
譲れない1つは、施設の状況から選びます。状況は、感覚ではなく、去年の修理の記録を数えて確かめます。修理の件数、その日のうちに来てほしかった件数、修理の分野の数、前の修理の記録が残っているか、の4つです。
施設の状況と、譲れない1つ| 施設の状況 | 数で見る目安 | 譲れない1つ | 下がってもよいもの |
|---|
| 急ぎの故障が多い | その日のうちに来てほしかった故障が、月に1件以上 | 連絡から到着までの早さ | 1件あたりの費用 |
|---|
| 予算がとくに厳しい | 修繕費の予算を、毎年ほぼ使い切っている | 見積の明細と、修理か交換かの説明 | 急がない修理の到着の早さ |
|---|
| 分野がばらばら | 去年の修理が、4つ以上の分野にまたがる | 分野をまたいで手配できること | 1つの分野の深さ |
|---|
| 記録がない | 前の修理の業者・金額・部品が分からない | 写真と部品の型番の報告 | 到着の早さや費用の一部 |
|---|
数の目安は、状況を見分けるための目安です。
図3 施設の状況が変われば、譲れない1つも変わる。
当てはまる状況が2つ以上あるときは、入居者の方の暮らしにいちばん直接ひびくものを選びます。給湯や空調、特殊浴槽の故障が多い施設なら、まず到着の早さです。
同じ施設でも、工事の種類で譲れない1つが変わることがあります。止まった設備の修理なら早さ、数百万円の改修なら明細と説明、毎月の小さな修理なら記録です。工事の種類ごとに、頼み先を分けて持つ施設もあります。
施設の大きさでも、会社からの見え方が変わります。小さな施設の小さな修理は、職人1人の半日分に満たないため、後回しにされることがあります。その場合は、修理をためて半日分にまとめて頼むと、受けてもらいやすくなります。小さい工事が断られる理由は小さい工事が断られるのは、1人工という単位のせいですにまとめています。
急ぎの故障が多い施設は、到着の早さを譲れない1つにします
給湯器、空調、特殊浴槽、トイレの詰まりなど、止まると入居者の方の暮らしにすぐひびく故障があります。こうした故障が多い施設は、到着の早さを譲れない1つにします。早さは、1つの数ではなく、4つの時間に分けて見ます。
- 電話やメールがつながるまで夜間・休日に、誰が受けるのか。留守番電話だけになっていないか。
- 折り返しまで受けてから、担当者が状況を聞き返してくるまでの時間。
- 到着まで平日の日中と、夜間・休日のそれぞれで、施設に着くまでの時間。
- 応急の手当てまで直りきらないときに、その日のうちに止水や仮の手当てができるか。
どの設備で早さが要るかは、止まったときの替わりの手だてで変わります。特殊浴槽が止まった日の入浴は、運営の基準に沿って清拭に替えられます。空調が止まった真夏の居室のように、替わりの手だてが限られる場面ほど、早さが効きます。
ただし、早く着いても、その日のうちに直るとは限りません。直るかどうかは、部品があるかどうかで決まることが多いからです。早さを選んだ会社には、よく使う部品を持っているかも聞きます。部品と修理の日数の関係はその日のうちに直るかは、業者の速さより部品で決まりますにまとめています。
早さと引き換えに下がりやすいのは、1件あたりの費用です。急がない修理まで早い会社に頼むと、費用が積み上がります。急ぎの故障だけを早い会社に頼み、急がない修理は別に分けると、費用の上がり方を抑えられます。
予算が厳しい施設は、明細と説明を譲れない1つにします
修繕の予算が厳しい施設は、いちばん安い会社を選びたくなります。けれども、譲れない1つにするのは「安さ」ではなく、「見積の明細と、修理か交換かの説明」です。1件の単価を少し下げるより、要らない交換を1つ避けるほうが、修繕費への効き目が大きいからです。
修理で済むものを交換すると、1件で数十万円から数百万円の差になることがあります。たとえば業務用エアコンの交換は、当窓口の目安で1台20万〜60万円です。修理で済むか、交換が要るかを理由とともに説明できる会社なら、その差を防げます。明細が細かい会社なら、どの行を削れるかも話し合えます。
明細と説明は、1社の見積しかないときにも役立ちます。行ごとの数量と単価が分かれば、ほかの工事や前回の見積と比べられるからです。1社の見積が妥当かを判断する方法は「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できますにあります。
社会福祉法人では、工事の見積を取る社数が決まっています。随意契約の見積合わせでは、令和8年4月から、工事の請負が400万円以下なら2社、超えると3社以上です。金額の大きい工事は入札になることもあるので、法人の経理規程とあわせて確かめます。予算が厳しいときほど、決まりどおりの社数で、同じ条件の見積をそろえます。
分野がばらばらの施設は、分野をまたいだ手配を譲れない1つにします
去年の修理が、建具、水まわり、照明、空調、外まわりと、いくつもの分野にまたがっている施設があります。こうした施設でいちばん時間がかかるのは、修理そのものより、分野ごとに頼む会社を探すことです。この場合は、1回の連絡で分野をまたいで手配できることを、譲れない1つにします。
図4 分野の数で、範囲の広さと深さのどちらを取るかが決まる。
分野をまたいで手配できる会社には、多くの分野を自社で直す会社と、分野ごとにほかの会社を手配する会社があります。どちらでも、「どこから先はほかの会社か」がはっきりしていることを確かめます。範囲の広さより境目のはっきりさを見る理由は対応範囲の広さより、境界が明確な会社を選びますで書いています。
範囲の広さと引き換えに下がりやすいのは、1つの分野の深さです。原因が分かりにくい故障や、専用の部品が要る機器は、その分野の専門の会社やメーカーと組み合わせます。
記録がない施設は、写真と型番の報告を譲れない1つにします
前の担当者が辞めて、どの業者に何を頼んだのか、どの部品を替えたのかが分からない施設があります。記録がないと、故障のたびに業者探しと部品の調べ直しから始まります。この場合は、直したあとの報告の残し方を、譲れない1つにします。
報告に残してもらうこと| 残してもらうこと | あとで役立つ場面 |
|---|
| 直す前と直したあとの写真 | 同じ場所がまた壊れたとき、前の状態と比べられる |
|---|
| 交換した部品の型番 | 次に同じ部品を頼むとき、調べ直さずに済む |
|---|
| 故障の原因 | 同じ故障が続くとき、使い方や更新の時期を考えられる |
|---|
| 次に見てもらう時期の目安 | 点検や更新の予定を、予算に入れられる |
|---|
| 費用の内訳 | 次の見積と比べるときの物差しになる |
|---|
報告の残し方は、会社によって大きく違います。写真付きの報告が翌日に届く会社もあれば、口頭で終わる会社もあります。記録を譲れない1つにした施設では、報告の手間の分、費用が少し上がっても受け入れると先に決めておきます。
届いた報告は、業者ごと・分野ごとに台帳にまとめておくと、次の故障のときに業者を探す時間が消えます。台帳の作り方は修理業者を毎回探す手間は、業者台帳で消せますにまとめています。
基準を満たすかは、言葉ではなく行動で見分けます
譲れない1つを決めたら、候補の会社がそれを満たしているかを確かめます。ここで頼りにするのは、会社の言葉ではなく行動です。ホームページや営業の話では、どの会社も「すぐに伺います」「何でもできます」と言います。言葉と、実際の行動のどこを見るかを並べておきます。
会社の言葉と、行動で見分ける所| 会社の言葉 | 行動で見る所 | 書き留めること |
|---|
| 「すぐに伺います」 | 連絡から折り返し、到着までの時間 | 連絡・折り返し・到着の時刻 |
|---|
| 「明細を出します」 | 見積の行の数と、「一式」の割合 | 行の数と、見積が届いた日 |
|---|
| 「何でもできます」 | できない分野や、ほかの会社に回す分野を言えるか | 「できない」と言った分野 |
|---|
| 「記録を残します」 | 報告が届いたか、写真と型番が入っているか | 報告が届いた日と、その中身 |
|---|
| 「修理で済むならそうします」 | 交換を勧める前に、修理の道を説明したか | 修理と交換の両方の見積が出たか |
|---|
行動を見るときは、時刻と日付を書き留めます。「早かった気がする」では、あとで比べられません。業者が信頼できるかは、できないと言えるか、追加の費用を先に相談するか、といった場面でも見分けられます。その方法は業者が信頼できるかは、5つの場面の行動で分かりますにまとめています。
1件試すと、譲れない1つが確かめられます
行動を見るいちばん確かな方法は、小さな修理を1件頼んでみることです。大事なのは、どの修理を頼むかです。譲れない1つが試される修理を選ぶと、1件で確かめたいことが見えます。
譲れない1つごとの、試し方| 譲れない1つ | 試しに頼む修理の例 | 見る所 |
|---|
| 到着の早さ | 平日の午後に出た水栓の水漏れなど、急ぎに近い小さな故障 | 連絡から折り返し、到着までの時刻 |
|---|
| 明細と説明 | 換気扇の異音など、修理か交換か迷う機器の相談 | 修理と交換の両方の見積と、その理由 |
|---|
| 分野をまたいだ手配 | 建具と照明など、2つの分野にまたがる小さな修理 | 1回の連絡で、2つの分野が手配されたか |
|---|
| 写真と型番の報告 | 照明器具や水栓など、部品を替える修理 | 報告が届くまでの日数と、型番が入っているか |
|---|
図5 小さな修理1件で、譲れない1つを満たすかを確かめる。
試しにかかる費用は、小さな修理1件分です。建具の調整や照明の交換なら、当窓口の目安で5,000円〜3万円ほどです。大きな工事を任せる前に、この費用で会社の動き方が分かります。
候補が2社あるなら、近い時期に似た修理を1件ずつ頼むと比べやすくなります。介護施設での作業の段取りに慣れているかも、この1件であわせて見ておきます。段取りの見分け方は「介護施設専門」に、資格や登録はありません。慣れているかは、段取りで見分けますにあります。
基準は、1枚の紙に書き出しておきます
譲れない1つと、その確かめ方は、1枚の紙に書き出しておきます。書いておくと、本部や理事会への説明に使えます。担当者が替わっても、なぜこの会社なのかが引き継がれます。半年後や1年後に見直すときの物差しにもなります。
基準を書き出す様式(記入例)| 項目 | 書くこと | 記入例 |
|---|
| 施設の状況 | 去年の修理の件数と、困ったこと | 年28件。そのうち、その日のうちに来てほしかった故障が9件 |
|---|
| 譲れない1つ | 状況からいちばん困っていること | 平日の日中、連絡から3時間以内に来る |
|---|
| 2番目・3番目の基準 | 譲れない1つの次に見るもの | 2番目は写真の報告、3番目は費用 |
|---|
| 下がってもよい基準 | 引き換えに受け入れるもの | 1件あたりの費用は、1〜2割上がってもよい |
|---|
| 確かめ方 | どの修理を1件試して、何を見るか | 水栓の水漏れで、連絡から到着までの時刻を見る |
|---|
| 見直す時期 | いつ、何を見て見直すか | 半年後に、到着の時刻と件数の記録で見直す |
|---|
記入例は、書き方を示すための例です。
候補の会社を同じ物差しで並べるときは、この紙の「譲れない1つ」に当たる列から読みます。そのまま使える比較表の列と書き方は営繕業者の比較は、12列の表に書き込んでから決めますにまとめています。
モデルケース:到着の早さを譲れない1つにした介護付有料老人ホーム
モデルケース:定員40名の介護付有料老人ホーム
到着の早さを譲れない1つにして、故障から到着までが翌日から当日に
変わったこと(結果)
給湯や空調の急ぎの故障で、連絡から業者が着くまでが、以前はほとんど翌日でした。それが、平日の日中なら3時間ほどになりました。1件あたりの費用は1割ほど上がりました。それでも、急がない修理を別の会社に月1回まとめて頼み、年間の修繕費は前の年とほぼ同じに収まりました。夜勤の職員が業者を探してかける電話も、1件の故障で4〜5本から1本になりました。
背景と、困っていたこと
このホームは築18年で、給湯器や空調の故障が増えていました。去年の修理28件のうち、その日のうちに来てほしかった故障が9件ありました。それまでの業者は費用が安い一方で、来られるのは早くても翌日でした。事務長は、早くて安くて何でも直せる会社を探して、3か月ほど決められずにいました。
決めたこと
事務長は、譲れない1つを「平日の日中、連絡から3時間以内に来ること」に決めました。1件あたりの費用は1〜2割上がってもよいと、紙に書きました。候補の2社に、水栓の水漏れの修理を1件ずつ頼み、連絡・折り返し・到着の時刻を書き留めました。1社は40分で折り返して2時間半で着き、もう1社は折り返しが翌朝でした。
進めてみて分かったこと
譲れない1つを決めると、ほかの基準で迷う時間が減りました。費用が上がる分は、急がない修理をためて、別の会社に月1回まとめて頼む形で補いました。半年後に見直したときも、紙に書いた基準と時刻の記録があったので、続けるかどうかを30分ほどで決められました。