その日のうちに、つまずかない手当てを
介護施設の床の不具合は、見た目の傷み以上に、転倒の危険として考えます。高齢の方の多くは、足を高く上げずにすり足で歩きます。床の端がわずかにめくれている、継ぎ目に数ミリの段差がある、といった程度でも、つま先が引っかかって転ぶことがあります。車椅子や歩行器の車輪も、段差で止まって体が前に投げ出されることがあります。
- 通る方を守るその場所に注意の表示やコーンを置き、入居者の方を別の通路に案内します。居室なら、ベッドからトイレまでの通り道を確かめます。
- 端を押さえるめくれた端や浮いた部分は、はがれにくく段差の小さいテープで押さえ、つまずかないようにします。
- 原因を見る床が湿っていないか、においやカビがないか、どこがすり減っているかを見ます。
- 写真と範囲を記録する剥がれた範囲、まわりの床の様子、すり減りや変色を写真に残します。
- 頼む先に連絡する内装や床の業者に連絡します。水が原因と思われるときは、設備業者にも頼みます。
図1 床が剥がれたときの手順。最初は、つまずかない手当てです。
剥がれに気づくのは、夜間の見回りのときのこともあります。夜間は足元が暗く、つまずきの危険がさらに高まります。足元灯で照らす、ベッドからトイレまでの通り道を変える、夜間のトイレに付き添う、といった手当てを、朝に業者へ連絡するまでの間に行います。
テープで押さえるのは、あくまで応急です。テープの端がめくれると、かえって引っかかりやすくなります。毎日の見回りで、テープが浮いていないかを確かめ、浮いていれば貼り直して、早めに業者に直してもらいます。職員が自分で床材をはがしたり、接着剤で貼り直したりすると、下地を傷めたり、段差が大きくなったりすることがあるため、業者に任せます。
剥がれの原因は、3つのどれか
床が剥がれる、浮く、段差ができる原因は、大きく3つに分かれます。床の下に水が入っている、床を貼った接着剤が古くなっている、そして車椅子や配膳車でのすり減りです。どれが原因かで、直し方と、ほかに直すべき場所が変わります。
床の不具合の原因と、見分け方| 原因 | 見分け方 | 直す前にすること |
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| 床の下の水(漏水・湿気・結露) | 床がふかふかする、湿っている、カビやにおいがある | 水の元(配管、トイレ、窓、外壁)を先に直す |
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| 接着剤の劣化 | 水の気配がなく、端や継ぎ目から浮いてくる | 範囲を確かめ、部分か全面かを業者と決める |
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| すり減り・傷 | 車椅子の通り道、ベッドのまわり、入口だけが傷む | 傷みやすい場所に強い床材を選ぶ |
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| 下地の傷み | 床が沈む、きしむ | 床材の下の板やコンクリートの状態を調べる |
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図2 床が剥がれる原因。水が原因なら、張り替えの前に水の元を直します。
すり減りが原因のときは、傷んでいる場所に特徴があります。居室の入口、ベッドの横の乗り降りの場所、車椅子が向きを変える廊下の角、配膳車が通る食堂の入口などです。こうした場所は、床材の表面が先にすり減り、継ぎ目が開いて段差になります。部分の張り替えで済むことも多く、その場所だけ強い床材にする方法もあります。
いちばん気をつけたいのは、水です。トイレや洗面台のまわり、浴室の近く、窓の下の床が剥がれたときは、床の下に水が回っていることがあります。水の元を直さずに床だけを張り替えると、またすぐに剥がれ、下地が腐ることもあります。水漏れの見分け方は、老人ホームで水漏れ。修理より先にすることがありますにまとめています。
介護施設の床材の選び方
張り替えるときは、元と同じ床材にするか、使い方に合わせて選び直すかを考えます。介護施設の床に求められるのは、滑りにくいこと、汚れを落としやすいこと、車椅子が動かしやすいこと、転んだときの衝撃をやわらげること、そして長持ちすることです。すべてを満たす床材はないため、場所ごとに何を優先するかを決めます。
床材の種類と、向いている場所| 床材 | 特徴 | 向いている場所 |
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| 長尺のビニル床シート | 継ぎ目が少なく、継ぎ目を溶かして水を通しにくくできる。掃除がしやすい | 廊下、居室、トイレ、汚れやすい場所 |
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| クッション性のある床シート | やわらかく、転んだときの衝撃をやわらげる | 居室、ベッドのまわり |
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| 木の床(フローリング) | 家庭的な雰囲気。水に弱いものがある | 共用の居間、グループホームの居室 |
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| タイルカーペット | 音をやわらげ、一部だけ替えられる。汚れが残りやすい | 事務所、静かにしたい共用部 |
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図3 介護施設の場所ごとに、床材で優先すること。
床の色も大切です。床と壁、床と段差の色に差をつけると、目が見えにくくなった方にも境目が分かりやすくなります。反対に、床に濃い色の模様や線があると、段差や穴に見えて、足を止めてしまう方もいます。認知症のある方が多い場所では、模様の少ない、落ち着いた色を選ぶことが多くあります。
やわらかすぎる床は、車椅子が重く感じられたり、歩くときに足がとられたりすることがあります。滑りにくい床も、すり足の方にはかえって引っかかりになることがあります。サンプルを取り寄せ、入居者の方の歩き方や車椅子の使い方を知っている職員と一緒に、実際に歩いて確かめてから選ぶと、失敗が減ります(リフォームの失敗で多いのは、使う人を入れない仕様の決め方です)。
入居者がいる中での、張り替えの段取り
床の張り替えは、その場所を空けないとできません。居室なら、入居者の方に一時的にほかの部屋へ移っていただく必要があります。張り替えの段取りは、何日空けられるかから組み立てます。
図4 居室の床の張り替えの流れの例。下地の状態と床材で日数が変わります。
段取りで決めること| 項目 | 決めること |
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| 空ける日数 | 居室を何日空けられるか。下地の補修が要るときは延びることも |
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| 移り先 | 入居者の方が移る部屋と、移動の介助 |
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| 家具の移動 | 誰がいつ動かすか。私物の扱い |
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| においと換気 | 接着剤のにおい。換気の方法と、近くの部屋への配慮 |
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| 音とほこり | はがすときの音とほこり。作業の時間帯 |
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入居者の方に移っていただくときは、ご本人とご家族に、工事の理由、日数、移り先の部屋を前もって伝えます。認知症のある方は、部屋が変わると落ち着かなくなることがあります。なじみの物を移り先に持っていく、職員がこまめに声をかける、といった配慮をします。私物の移動は、ご本人やご家族の了解を得てから行います。
空室の居室なら、入居者の方の移動がないため、段取りが簡単になります。有料老人ホームでは、退居のあとの原状回復と合わせて張り替える施設も多くあります(退去の原状回復は、修繕と改修を分けると負担が決まります)。入居中の居室を何室も張り替えるときは、1日に何室ずつ進めるか、移り先の部屋をいくつ用意できるかを先に決めます。音や粉じん、においへの配慮は、騒音と粉じんは、時間帯だけでなく工法と区画でも減らせますにまとめています。
扉と段差の工事と、まとめる
床を張り替えるときは、扉と床の取り合いを見直すよい機会です。居室やトイレの入口の敷居(床のわずかな段差)は、車椅子や歩行器の妨げになり、つまずきの原因にもなります。床を張り替えるときに、敷居をなくす、段差をなだらかにする、といった工事をまとめると、居室を空ける回数が一度で済みます。
図5 床の張り替えと一緒にまとめるとよい工事。
段差をなくす工事は、床の高さをそろえる、すり付けの部材でなだらかにする、敷居を取り除く、といった方法があります。扉の下のすき間が大きくなると、冷暖房の効きや音の漏れに影響することもあるため、扉の調整も一緒に頼みます。
引き戸の中には、上の枠から戸をつるして、床にレールを設けない形のものがあります。床にレールがないと、つまずきや車輪の引っかかりが減り、掃除もしやすくなります。扉の交換も合わせて考えるときは、建具の業者と床の業者の工程を合わせて組んでもらいます。扉の不具合の見分け方は、ドアや手すりの不具合は、6つの部品のどれかですにまとめています。段差やスロープの基準は、バリアフリー改修は、介護保険・バリアフリー法・建築基準法で決まりますをご覧ください。
どこに頼むか。伝えること
床の剥がれや張り替えは、内装の業者、床の専門の業者、工務店が引き受けます。水が原因のときは、水の元を直す設備業者と、床の業者の両方が要ります。何か所もあるとき、扉や手すりも一緒に直したいときは、まとめて見てもらえる業者に頼むと、工程を合わせやすくなります。
連絡のときに伝えること| 項目 | 伝える中身 |
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| 場所と広さ | どの部屋、廊下のどのあたりか。おおよその広さ |
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| 症状 | めくれ、浮き、段差、ふかふか、すり減り |
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| 原因の見当 | 近くに水まわりがあるか、湿っているか |
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| 今の床材 | 分かれば種類と色(写真で十分) |
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| 空けられる日数 | 居室なら何日空けられるか |
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| 一緒に直したいこと | 扉、敷居、手すり |
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床の工事を頼む業者を選ぶときは、入居者がいる施設での工事の経験を聞いておきます。毎日の片付け、廊下の通路を残すこと、音の出る作業の時間帯など、施設ならではの配慮に慣れているかで、工事の間の負担が大きく変わります。
見積を受け取ったら、古い床材をはがして処分する費用、下地の補修の費用、新しい床材と貼る手間、家具の移動、夜間や休日の割増が、行を分けて書かれているかを確かめます。下地の傷みは、はがしてみないと分からないことがあるため、傷みがあったときの追加の費用の決め方を、前もって業者と話しておきます。
モデルケース:トイレの前の床が浮いてきた施設
モデルケース:定員54名の介護付有料老人ホーム
居室のトイレの前の床が、ふかふかと浮いてきた
変わったこと(結果)
職員が、居室のトイレの前の床がふかふかと浮いていることに気づき、テープで端を押さえて、入居者の方にはトイレまで付き添うようにしました。床の業者に見てもらうと、床の下が湿っていて、原因はトイレの給水の継ぎ目からの小さなにじみでした。先に設備業者が継ぎ目を直し、床の下を乾かしてから、床の業者が下地を補修して張り替えました。入居者の方には2日間、空いている部屋に移っていただきました。
背景と、困っていたこと
この施設では、床が浮いてきたら貼り直す、ということを何度かくり返していました。原因が水だとは考えておらず、しばらくするとまた浮いてくる、ということが続いていました。
その後に決めたこと
施設は、水まわりの近くの床が浮いたときは、まず水の元を疑い、設備業者にも見てもらう決まりにしました。あわせて、居室のトイレの給水の継ぎ目を、年に一度の点検で見てもらうことにしました。