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配偶者を失うのが怖い夜に|がんの夫・妻を思う気持ちの置き方

このテーマの総論:夫・妻のがん、あとどれくらい?|配偶者の見通しの聞き方

この記事の結論

夫(妻)を失うのが怖いのは、長い年月を一緒に生きてきたからこそ起こる自然な気持ちで、見捨てることとは違います。怖さを消そうとするより、書く・話す・触れるで今夜の置き場所をつくり、夫婦で分け合うかどうかはゆっくり決めてかまいません。

理由と根拠は、このあと本文でくわしくお伝えします。 主な出典:国立がん研究センター がん情報サービス「『がん相談支援センター』とは」;国立がん… ほか6件 参考・出典を見る 先に「次の一歩」を見る

夫(妻)のいない家を想像して息が苦しくなるのは、その人のいる暮らしを長く大切にしてきたからです。怖さを感じる自分を責める必要はありません。この怖さは、亡くなる前から始まる悲しみとして説明されることがあり、強さや波の出方は人によって違いますが、同じような夜を過ごしている家族は、あなただけではありません。

この記事では、夫のいない家を想像して息ができなくなる夜に絞って、その夜にまずすること、怖さの置き場所(書く・話す・触れる)、怖さが二人の「今」を奪う仕組み、そして怖さを夫婦で分け合うかどうかの考え方を紹介します。家族の立場ごとの喪失の怖さは立場別の喪失の怖さとの向き合い方に、看取りの前後に配偶者ができることは最期に後悔したくない配偶者へにまとめています。夫を思う妻の方を主な読み手にしていますが、妻を思う夫の方、パートナーの方にも同じように読んでいただけます。

夫のいない暮らしを想像して、眠れずにいる方へ

  • 夫のいない家を想像すると、息がうまくできなくなる。
  • 子どもたちの前では、怖いなんてとても言えない。
  • 「夫が死ぬのが怖い」と思うたびに、夫を見送る準備をしているようで、自分を責めてしまう。

がんの夫が死ぬのが怖くてたまりません。この恐怖とどう向き合えばいいですか?

怖さを消そうとしなくてかまいません。その怖さは、夫と生きてきた年月の重さそのものです。今夜は「ここに置く」と置き場所を決め、怖さを抱えたままでも夫の隣にいられる時間を守ることを目指します。

日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の機関誌(Foundation News Vol.48、2025年4月)では、予期悲嘆は「喪失が現実となる以前に起こる悲嘆」と説明されています。夫はまだ隣にいるのに、悲しみや怖さが先にやってくる。それは心が壊れたのではなく、これから起こるかもしれないことを、心が先取りして感じている状態ともいえます。

向き合うといっても、正面から見つめ続ける必要はありません。三つの小さな手順で足ります。一つめは、名前をつけること。「これは、亡くなる前から来る悲しみなんだ」と分かるだけで、正体の分からない怖さより少し扱いやすくなります。二つめは、置き場所を決めること。紙、人、手のひら。この記事で紹介する、書く・話す・触れるのどれかです。三つめは、今に戻ること。夫の声、手の温かさ、湯飲みから立つ湯気。怖さが未来へ連れて行こうとするたびに、目の前のものへ注意を戻します。

夫のいない家を想像すると、なぜ息ができなくなるのですか?

家のあちこちに、夫と過ごしてきた時間が染みこんでいるからです。食器棚の湯飲み、玄関の靴、テレビの前の定位置。いない家を思い浮かべると、そのすべてが一度に欠けた光景が押し寄せ、体が先に反応して息が浅くなります。

長く一緒に暮らすと、相手は暮らしのあちこちに溶けこんでいきます。朝、やかんに火をかける音。「ただいま」に返ってくる「おかえり」。テレビを見ながらこぼす一言に、相づちを打つ人。夫を失うことを想像するとき、思い浮かぶのは夫その人だけではなく、そうした暮らしのかけらが一度に欠けていく光景です。だから怖さは、ひとつの塊ではなく、いくつもの怖さが重なった形でやってきます。

長年隣にいた夫

  • 毎日の会話「ただいま」の返事、テレビを見ながらの一言
  • 家の役割ゴミ出し、車の運転、家計の相談など、分け合ってきたこと
  • 二人だけの記憶子どもが小さかったころ、若いころの旅先の景色
  • これからの予定退職後に行こうと話していた場所、孫の成長
  • 自分の居場所「○○さんの奥さん」として過ごしてきた時間
  • 弱音を聞いてくれる人いちばん怖いときに、いつも話してきた相手
暮らしの中で、夫が占めてきた場所の例

とりわけ苦しいのは、図のいちばん下かもしれません。怖いことやつらいことがあったとき、真っ先に話してきた相手が夫だったという方もいるでしょう。今いちばん聞いてほしい怖さを、いちばん聞いてほしい人には話せない。配偶者の怖さが、ほかの家族の怖さと少し違う形をしているのは、そのためです。

夜にこの光景が強く押し寄せるのは、家が静かになり、一人で考える時間が長くなるからです。昼は家事や用事が気をそらしてくれますが、夜は隣の部屋の物音さえ、いない家の静けさを想像させます。

怖いと思う自分は、夫を見捨てているのでしょうか?

見捨てているのではありません。失うことを想像して怖くなるのは、夫を大切に思っているからこそです。回復を願う気持ちと怖がる気持ちは、同じ人の中に同時にあってかまいません。怖さを抱えながら、少しずつ心の準備を重ねていくのは自然な道のりです。

「怖いと思ったら、本当にそうなってしまう気がする」「治ると信じなければ、夫に申し訳ない」。そう考えて、怖さを押し込めようとする方がいます。けれど、考えることと、起こることは別です。夫の回復を願いながら、同時に失うことを怖がる。その揺れは、どちらも夫を思う気持ちから出ています。

心の準備について、こんな調査があります。日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の研究「J-HOPE4」は、2018年に215施設(うち緩和ケア病棟187)の遺族17,147名を対象に行われ、9,071名から有効回答を得ました。患者が亡くなることに対するこころの準備が「できていた」と答えた人は29%で、「ある程度できていた」を含めると85%でした。回答者の大半は緩和ケア病棟の遺族なので、すべての家族に当てはまる数字ではありません。それでも、準備ができていたと言い切れる人は3割ほどで、多くの人は「ある程度」の準備のまま、その時を迎えていたことが分かります。怖さが残っているのは準備が足りないからではない、と読むこともできます。

息が苦しくなったその夜、まず何をすればいいですか?

考えるより先に、体を落ち着かせます。明かりを少しつけ、吐く息を長くして、足の裏や手のひらの感覚に意識を戻します。胸の痛みがある、息苦しさがおさまらないなど体の異変を感じるときは、ためらわず119番に電話してください。

怖さが体に来ている夜は、頭で考えるほど苦しくなります。まず布団の上に座り、枕元の小さな明かりをつけます。真っ暗な部屋は、想像の中のいない家とよく似ているからです。足の裏を床につけ、口をすぼめて、細く長く息を吐きます。吸うことより、吐くことに意識を向けます。目に入るものを三つ、心の中で名前を言ってみるのも一つの方法です。時計、湯飲み、カーテン。今いる部屋に、意識が少しずつ戻ってきます。

隣で夫が眠っているなら、起こさないように寝室を出て、台所で温かい飲み物を一杯いれてもかまいません。反対に、夫の寝息が聞こえる場所のほうが落ち着くなら、そのまま隣にいます。どちらが正しいということはありません。体が少し落ち着いたら、次に紹介する三つの置き場所のどれかを選びます。眠れなくても、横になって目を閉じているだけで、体を休める時間になります。

今夜、この怖さをどこに置けばいいですか?

置き場所は「書く」「話す」「触れる」の3つです。書けば頭の外に出せ、話せば一人で抱えずにすみ、触れれば今ここに戻れます。今夜はどれか一つで足ります。

書く──怖さに形を与えて、いったん手放す

怖いことを、紙に一行ずつ書き出します。夜中に浮かぶ心配は、気持ちのことと暮らしのことが混ざり合って、ひとつの大きな不安に見えがちです。紙を縦に半分に折り、左に気持ちの怖さ、右に暮らしの心配を書き分けると、正体が少し見えてきます。書き終えたら、ノートを閉じて枕元から少し離しておきます。

気持ちの怖さ

  • 夫のいない家に帰ること
  • ひとりで年を重ねていくこと
  • 夫の声や口ぐせを忘れてしまうこと

暮らしの心配

  • 家計や年金、保険のこと
  • 住まいや車、名義のこと
  • お別れのあとの届け出や手続き
頭から離れない心配を、紙の左右に分けてみると

右側の暮らしの心配は、夜に答えを出さなくてかまいません。病院の医療ソーシャルワーカーは、患者さんや家族の経済的・社会的な問題の相談に応じる専門職で、がん相談支援センターでも、家族だけで無料・匿名の相談ができます。昼の窓口に持っていく、と決めて紙の右側を閉じれば、今夜は左側だけと向き合えば足ります。夫に宛てた手紙を書くのもよい方法です。渡さなくてかまいません。言えずにいる「ありがとう」や「ごめんね」を文字にすると、胸の中で回り続けていた言葉が少し静かになります。

話す──一人で抱えずに、誰かの耳を借りる

きょうだいや古い友人に、「最近、夜になると怖くて」とひと言だけ送ってみます。詳しく説明しなくてかまいません。夜中に誰かの声を聞きたいときは、24時間・無料のよりそいホットライン(0120-279-338)があります。がん専門の窓口ではありませんが、夜中でも電話で話せます。がんと家族の相談室のLINEなら、夜中に送ったひと言も翌朝いちばんに読まれ、返事が届きます。スタンプひとつでもかまいません。夫婦の外で本音を話せる相手の見つけ方は、配偶者が本音を話せる相手でも紹介しています。

触れる──手のひらで、今に戻る

夫が眠っているなら、布団の上からそっと手を重ねます。起きているなら、「手、貸して」と言って握ってみてください。体の温かさは、怖さが描く未来の光景より、ずっと確かな「今」です。夫に触れられない夜は、自分の胸に手を当てて、吐く息を長くします。温かいお茶を両手で包むだけでも、意識が手のひらに戻ってきます。

置き場所やり方の例向いている夜
書く紙を左右に分けて書き、ノートを閉じて枕元から離す同じ考えが頭の中で回り続ける夜
話すきょうだいや友人にひと言送る。夜中は24時間の電話窓口へ一人で抱えているのが限界に近い夜
触れる夫の手に手を重ねる。自分の胸に手を当てて息を吐く夫がそばにいて、言葉が出てこない夜
書く・話す・触れる、それぞれのやり方と向いている夜

怖さが夫との「今」を奪ってしまうのは、なぜですか?

怖さは心を、まだ来ていない未来へ連れて行くからです。夫が目の前で話しているのに、頭の中ではいなくなったあとの家にいる。そうして今の時間がすり抜け、あとで「もっとちゃんと見ていれば」という後悔を呼びやすくなります。

夫の寝顔を見ながら、ひとりになった食卓を思い浮かべてしまう。夫が冗談を言っても、笑うタイミングを逃す。顔を見るのがつらくて、台所に立つ時間ばかりが増える。怖さに飲まれているときの行動は、どれも夫から少し離れる方向に向かいがちです。そして離れたことに気づくと、「大事な時間を無駄にしている」と自分を責め、怖さはさらに大きくなります。

  1. 1未来を想像する夫がいなくなったあとの家や、ひとりの食卓が浮かぶ
  2. 2体がこわばる息が浅くなり、胸がつまる。夜は目がさえる
  3. 3夫から目をそらす顔を見るのがつらく、用事を探して離れてしまう
  4. 4今がすり抜ける夫の話や冗談が、耳に入らないまま過ぎていく
  5. 5自分を責める「大事な時間を無駄にした」と思い、怖さがさらに増す
怖さが「今」の時間を奪っていくときの流れの例

この流れは、どこか一か所で止められます。止めやすいのは三つめの「目をそらす」です。顔を見るのがつらいときは、顔ではなく手を見る。話を聞くのがつらいときは、相づちだけ打つ。離れたくなったら、隣に座って同じテレビを見る。何かを話さなくても、同じ場所にいるだけで、今の時間は二人のものとして残ります。今日の夫について「よかったこと」を一つだけ探す習慣も、心を未来から今へ連れ戻す手がかりになります。ひと口多く食べた、昔の話で笑った、名前を呼んでくれた。小さなことで十分です。

この怖さを、夫に打ち明けたほうがいいですか?

打ち明けるかどうかに正解はありません。夫婦がこれまで大事な話をどう分け合ってきたか、夫が自分の病気をどこまで話題にしているかで決めてかまいません。怖さそのものではなく、「一緒にいたい」という愛情の形で伝える道もあります。

怖さを分け合ったことで、夫婦の距離が縮まることがあります。夫の側にも、残していく妻を案じる気持ちや、自分自身の怖さがあるかもしれません。「私も怖い」の一言が、夫にとって「自分だけじゃなかった」という安心になることもあります。一方で、体調が悪い時期や、夫が病気の話を避けている時期に打ち明けると、夫が妻を慰める側に回り、疲れてしまうこともあります。

  1. Q1夫は、自分の病気やこれからのことを話題にしていますか

    はい夫の話を聞いたあとで、「私も怖い」と短く添えてみる

    いいえ今は打ち明けず、怖さは夫以外の相手に話す

  2. Q2これまでの夫婦は、大事な話を二人で分け合ってきましたか

    はい落ち着いた時間を選び、「聞いてほしいことがある」と切り出す

    いいえ言葉より、手紙やふるまいで「一緒にいたい」を伝える

  3. Q3打ち明けたあと、夫の気持ちを受け止める余力がありますか

    はい話したあとに、二人で好きなことをする時間もつくる

    いいえ先に自分の気持ちを外で整えてから考える

怖さを夫に打ち明けるか迷ったときの分かれ道

伝え方を選べるなら、「あなたがいなくなるのが怖い」より、「あなたと一緒にいる時間が大事」と、今に向けた言葉のほうが、夫にとって受け取りやすいことがあります。同じ気持ちから出た言葉でも、向きが未来か今かで、届き方が変わります。

子どもたちの前で怖さを隠し続けるのが、苦しいときは?

全員の前で平気でいる必要も、全員に打ち明ける必要もありません。いちばん話しやすい子ども一人にだけ、「お母さんも、本当は怖い」と伝えてみる方法があります。子どもの側も、親の本音を知ることで動きやすくなることがあります。

子どもたちの前で気丈にふるまうのは、子どもを不安にさせたくない親心です。けれど、隠し続けるほど、母親の怖さは夜にまとめて押し寄せます。大人になった子どもは、親が弱さを見せてくれたことで、かえって手を貸しやすくなることもあります。「怖い」と伝えたあとに、「週に一度、面会を代わってくれると助かる」「夜にときどき電話をくれる?」と、頼みたいことを一つ添えると、子どもも何をすればいいか分かります。

打ち明けるのがまだ難しいときは、子ども以外の大人に先に話してみてください。きょうだい、古い友人、がん相談支援センターの相談員。家族の外で一度言葉にしておくと、子どもに話すときの言葉も見つかりやすくなります。

怖さで眠れない夜や、何も手につかない日が続くときは?

眠れない、食べられない、涙が止まらない日が続くときは、気持ちの問題だと我慢せず、かかりつけ医やがん相談支援センターに相談してください。家族の心と体のつらさも、相談してよいことです。消えてしまいたいと感じるときは、すぐ電話窓口へ。

国立がん研究センターのがん情報サービスでは、家族は「第二の患者」ともいわれると紹介されています。夫を思う怖さで心と体がすり減っているなら、それは手当てを受けてよい状態です。かかりつけ医に「家族の病気のことで眠れない」と伝えるだけで、話は始まります。

公的な電話の窓口もあります。こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)にかけると、その場所の都道府県や政令指定都市が行う公的な相談先につながります。曜日や時間は地域によって異なり、通話料がかかります。夜中も含めて24時間対応ののは、よりそいホットライン(0120-279-338、無料)です。自分を傷つけてしまいそうなほど追いつめられているときは、ためらわずにかけてください。命の危険が差し迫っているときは、119番に電話します。がんと家族の相談室(080-4178-5017)では、平日の9時から18時は担当が直接電話に出ます。それ以外の時間は自動音声でお受けし、翌朝9時までに担当から折り返しのお電話をします。

夜ごとに怖さで眠れなかった妻は、何が変わった?

説明のための例(実在の方の体験談ではありません)

どなたの例か
70代・妻の立場(70代の夫が緩和ケア病棟に入院中。結婚して50年近く。娘が2人いて、長女は隣の市、次女は県外に住む)
相談のあとに変わったこと
毎晩1時間以上続いていた検索の時間が、夫への手紙を書く時間に変わった。長女に「お母さんも怖い」と打ち明け、面会の付き添いを週に2回、交代してもらえるようになった。

1. 相談のあとに変わったこと

相談からひと月ほどで、夜の過ごし方が変わりました。毎晩1時間以上スマホで検索していた時間は、便箋に夫への手紙を書く時間になり、これまでに6通がたまりました。渡すつもりはなく、書き終えると引き出しにしまいます。長女には電話で「お母さんも、本当は怖いの」と打ち明けました。それをきっかけに、長女が週に2回、面会を代わってくれるようになり、その日は家で昼寝ができるようになりました。面会では、夫の手を握って同じテレビを見る時間が増えたそうです。「夫の冗談に、また笑えるようになった」と話しています。

2. 相談を考えた背景

夫が緩和ケア病棟に移ると決まった日、妻は一人で家に帰りました。食器棚には夫の湯飲みが並び、玄関には夫の靴がそろえて置いたままでした。結婚して50年近く、夫のいない夜を過ごしたことは、ほとんどありませんでした。その夜、布団に入ると胸が苦しくなり、明け方まで眠れなかったといいます。

3. 相談する前に困っていたこと

夜になると、「夫 がん 怖い」「配偶者 失う 不安」と検索しては、遺族の体験談を読み、さらに怖くなる。娘たちの前では気丈にふるまい、面会では夫の顔をまっすぐ見られずにいました。怖いと思う自分が、夫の回復をあきらめているようで、後ろめたさも感じていたといいます。

4. ここを選んだ理由・決め手

病棟の看護師に話そうかとも思いましたが、忙しそうで言い出せませんでした。電話は苦手だったため、夜中にLINEで「夜になると怖くてたまりません」とだけ送りました。翌朝届いた返事で、ただ話を聞いてもらう電話もあると知り、フォームから平日の午後の時間帯を選んで申し込みました。

5. 相談で話したこと・その後

電話では、担当が評価も助言もはさまずに、20分ほど話を聞きました。妻は途中で何度も泣きましたが、担当は話をさえぎりませんでした。担当は夫の病状や、これからの見通しについての予測はしていません。話し終えたあと、妻は自分から「手紙なら書けるかもしれない」と言い、その夜に1通目を書きました。次の面会で看護師に、家族も相談できる場所を尋ねると、病院のがん相談支援センターを教えてもらえたそうです。「怖いままでいいと言われたのは、初めてだった」と振り返っています。

※よくある状況を組み合わせて作った例です。登場する方は実在しません。相談の進み方は、状況によって異なります。

医療者に聞く質問例

  • 夫と一緒に過ごすとき、今の体の状態で気をつけることはありますか。
  • 夫の手を握ったり体に触れたりするとき、避けたほうがよいところはありますか。
  • 夫と二人で過ごす時間を増やしたいのですが、面会について相談できることはありますか。
  • 夫の気持ちの変化で、家族が気づいたら伝えてほしいことはありますか。
  • 夫のことで眠れない家族が、話を聞いてもらえる窓口はこの病院にありますか。

とはいえ、怖さを抱えるあなたに伝えたい2つのこと

① 気持ちのこと──怖さは、一緒に生きてきた時間と同じ大きさで来る

怖さが大きいのは、それだけ長く、深く、夫と一緒に生きてきたからです。怖さを小さくしようと頑張るより、「これだけ大事な人なのだから、怖くて当然だ」と認めてしまうほうが、かえって息がしやすくなることがあります。怖いまま夫の隣に座り、怖いまま手を握る。それで十分に、夫と一緒に今を生きています。

② 実務のこと──怖さを話す「昼の時間」を、予定に一つ入れておく

怖さは、夜に一人きりで抱えるほど大きくなります。そこで、昼のうちに怖さを話す時間を、予定として一つ決めておきます。面会の帰りに長女と30分お茶を飲む、週に一度がん相談支援センターの面談を入れる、電話で話す曜日を決めておく。家族の中に「お母さんの話を聞く係」を一人決めてもらうのも一つの方法です。話す先が昼にあると分かっていれば、夜に浮かんだ怖さも「明日、あの人に話そう」と、いったん置いておけます。

今日できること

怖さで眠れない夜に、今夜から明日にできる3つのこと

  1. 怖いことを一行だけ書く

    枕元の紙に、今いちばん怖いことを一行だけ書き、紙を裏返して置きます。続きは明日でかまいません。

  2. 今日の夫の「よかった」を一つ探す

    笑った、ひと口食べた、名前を呼んでくれた。今日の夫で「よかった」と思えたことを一つ、心の中で言葉にします。

  3. ひと言だけ外に送る

    眠れなければ、きょうだいや友人、相談室のLINEにひと言だけ送ります。相談室では、夜のうちに届いたメッセージを翌朝いちばんに読み、お返事しています。

よくある質問

夫の病状が落ち着いている時期なのに、怖くなるのはおかしいですか?

おかしくありません。予期悲嘆は、喪失が現実となる前に起こる悲しみと説明されていて、病状が落ち着いている時期にも、ふとした拍子にやってくることがあります。調子のよい日の夫を見て、かえって失うことが怖くなる方もいます。怖さが来たら、今日の夫の「よかったこと」を一つ探して、今に戻ってみてください。

夫がいなくなる夢を見て、夜中に目が覚めます。

昼のあいだ押し込めている怖さが、眠りの中に出てくることもあります。目が覚めたら、明かりを少しつけ、夢の内容を一行だけ書いてから横になってみてください。眠れない日が続いて昼間の暮らしに差し障るときは、かかりつけ医に相談してください。

この怖さが、いつか消える日は来ますか?

いつ、どのくらい和らぐかは人によって違い、約束できる答えはありません。ただ、怖さを話せる相手や場所ができると、一人で抱えていた夜とは違う過ごし方ができるようになることがあります。怖さが消えるのを待つより、怖さと一緒に過ごせる形を探すほうが、今の時間を守りやすくなります。

夫に「先に逝ってごめんな」と言われました。何と返せばいいですか?

すぐに「そんなこと言わないで」と打ち消したくなりますが、まず「そんなふうに思ってたんだね」と受け止めてみてください。そのうえで、「謝らなくていい。一緒にいられてうれしい」と、今の気持ちを返します。夫がその話を続けたいようなら、最後まで聞きます。言葉が出ないときは、手を握るだけでも返事になります。

夫が亡くなったあとの暮らしを考えるのは、冷たいでしょうか?

冷たいことではありません。暮らしの心配を昼の窓口で少しずつ小さくしておくことは、夜の怖さを減らし、夫と過ごす今の時間を守ることにもつながります。がんと家族の相談室では「看取り前後にやることチェックリスト」をお送りしていて、届け出や手続きの流れを前もって知っておけます。

お別れのあとにも、悲しみを相談できる場所はありますか?

あります。がん相談支援センターはご家族も利用でき、国立がん研究センター中央病院には、がんで大切な人を亡くした遺族のための遺族ケア外来があります。悲しみを専門に扱う場所があると知っておくだけでも、「その先」が真っ暗ではないと感じられることがあります。

「怖い」をひとりで抱えない20分を、電話でつくりませんか

送信いただくと受付確認のメールがすぐに届き、ご希望の時間帯に担当からお電話します。評価も助言もはさまずに、夫(妻)を思う怖さをそのまま伺います。話したあとで、気持ちの置き場所や、お子さんへの伝え方を一緒に整理することもできます。

  1. 入力は1分ほどお名前はニックネームで構いません。ご相談の内容は、ひとことでも大丈夫です。
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    次の一歩

    いちばん近い人だからこそ、ひとりで抱え込まない

    パートナーの病気は、暮らし・お金・お子さんのこと・仕事が一度に重なりやすいものです。病状のことは主治医へ、お金や制度のことはがん相談支援センターや病院の医療ソーシャルワーカーへ。相談先を分けると、ひとつずつ進められます。

    主治医や看護師に聞いてみる一言

    「これからの生活のことは、どなたに相談すればよいですか。」

    1. パートナー本人が何を知りたいか、どこまで話したいかを確かめる
    2. 医療費や仕事の制度(高額療養費制度・傷病手当金など)を、相談先で確かめる
    3. お子さんへの伝え方に迷うときも、ひとりで決めずに相談する

    手元にあると話しやすいもの

    • 健康保険の資格が分かるもの(マイナ保険証・資格確認書など)
    • 医療費の領収書

    公的な相談先

    医療ソーシャルワーカー(病院の相談室など)
    医療費や制度、退院後の暮らし、在宅療養の準備を一緒に考える専門職です。
    加入している健康保険の窓口
    高額療養費制度や傷病手当金などの手続きを確かめられます。

    このサイトでできること

    体調の急な変化は、まず主治医・病棟・訪問看護へ。命に関わる緊急時は119番へ。

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    参考・出典

    監修者 木内 由香

    緩和ケア・がん患者と家族の
    支援に関する監修者

    木内 由香

    緩和ケア・がん患者と家族の支援に関する監修者

    県立がんセンターでの勤務経験を経て、がん患者さんとそのご家族が直面する療養上の悩みや意思決定の葛藤に向き合ってきました。

    がんと診断されたご本人を支えるご家族には、「一日でも長く生きていてほしい」という切実な願いがあります。一方で、緩和ケアでは、痛みや苦痛を和らげること、その人らしい生活を大切にすること、ご本人の希望を尊重することなど、さまざまな視点から療養の方向性を考える必要があります。

    こうしたご家族の願いと医療・療養方針との間に生まれる葛藤を理解し、年間約200名のがん患者さんとそのご家族に関わる中で、それぞれの状況に応じた支援のあり方や、その先に進むための選択肢をともに考えてきました。

    「がんと家族の相談室」では、がん患者さんご本人だけでなく、支えるご家族も孤立せず、必要な情報や相談先につながれることを大切にしています。医療情報を伝える際には、医学的な正確性に配慮するとともに、ご家族が抱える不安や迷いにも目を向け、療養生活の中で次の一歩を考えるための情報発信を目指しています。

    監修は医療情報の正確性と表現の妥当性に関するものであり、個別の診断・治療・余命の判断を行うものではありません。ご本人の症状や治療については、担当の医師・看護師にご確認ください。

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