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最期に後悔したくない配偶者へ|がんの夫・妻に今できること

このテーマの総論:夫・妻のがん、あとどれくらい?|配偶者の見通しの聞き方

この記事の結論

後悔をゼロにするより、話せるうちにしかできないことを先にします。「ありがとう」はお別れではなく今日の言葉として小さく伝え、妻の希望を一つずつ聞き、写真や声を少し残します。看取ったあとの自分を支えてくれる先も、今のうちに一つ決めておきます。

理由と根拠は、このあと本文でくわしくお伝えします。 主な出典:日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団『遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関す… ほか10件 参考・出典を見る 先に「次の一歩」を見る

妻の最期が近づいていると分かっているとき、夫が後悔を減らすためにできることは、驚くほど小さなことの積み重ねです。今日のできごとに「ありがとう」を一つ添える。妻の希望を一つ聞いて、かなえられる形を探す。写真や声を、妻に聞いてから少しだけ残す。そして、見送ったあとの自分を誰が支えてくれるのかを、今のうちに決めておく。どれも、言葉を交わせる今だからこそできることです。

残された時間がどのくらいかは、医師の見立てでも目安にとどまり、一人ひとり違います。この記事では、まだ話せるうちに配偶者としてできること(「ありがとう」はまだ早いのかという迷いへの答え、妻の希望の聞き方、写真や声の残し方)と、看取ったあとの自分を支える先への準備に絞りました。最期の時期にそばでできることは夫・妻の最期にそばでできることに、感謝や許しの言葉の選び方は最期に伝える5つの言葉にまとめています。妻を見送ろうとしている夫の方を主な読み手にしていますが、夫を看ている妻の方も、そのまま読み替えて使えます。

妻との残りの時間を前に、立ちすくんでいる方へ

  • 妻に残された時間が短いと分かっている。何を言えばいいのか、何をしておけばいいのか分からない。
  • 「ありがとう」を言うのは、まだ早い気がする。言ったら、もう最期だと認めてしまうようで。
  • 後悔したくないのに、何もできないまま、また一日が終わってしまう。

妻の最期が近づいています。後悔しないために、夫として今何をすればいいですか?

「後悔したくない」という気持ちを分けると、「伝えておきたい」「聞いておきたい」「残しておきたい」「あとで自分を責めたくない」の4つになります。それぞれに、今日できる小さな一歩があります。大きなことをしなくてかまいません。

後悔したくない、と思うほど、やるべきことが頭の中に積み上がっていきます。旅行に連れて行くべきか、手紙を書くべきか、子どもたちを集めるべきか。全部を考えているうちに、面会の時間が終わってしまう。そうならないために、気持ちの中身をほどいて、今日の一歩に置きかえます。

気持ちの中身今日できること時間や体力がないときの最小限
伝えておきたい今日のできごとに「ありがとう」を添える手を握って、ひとことだけ
聞いておきたい妻の小さな希望を一つ尋ねる「今、何か欲しいものある?」
残しておきたい写真や声を、妻に聞いてから少し残す手を重ねた写真を一枚
あとで自分を責めたくない看取ったあとに話を聞いてくれる先を決める連絡先を一つ控えておく
「後悔したくない」の中身と、今日できる小さな一歩

急ぎたいのは、上の3つです。国立がん研究センターの解説では、病状が進んだ時期や看取りの時期には、せん妄と呼ばれる一時的な意識の乱れが起こりやすくなるとされています。言葉のやりとりができる日は、限られているかもしれません。「いつか」に回さず、「今日」に一つだけ。それで十分です。

4つ目は、妻のためというより、看取ったあとの夫のための準備です。後回しにされがちですが、妻と話せる今だからこそ整えやすいものでもあります。

「ありがとう」を言うのは、まだ早い気がします。今、言ってもいいのでしょうか?

言ってかまいません。「ありがとう」はお別れの言葉ではなく、今日の言葉です。人生を振り返るような改まった言い方をせず、今日してもらったことや、今日一緒にいられたことにお礼を言えば、最期の合図には聞こえにくくなります。

「まだ早い」と感じる気持ちの奥には、いくつかの迷いが重なっています。妻に「もう長くない」と思っていることが伝わってしまいそうで怖い。自分がまだ、お別れを受け入れられていない。お礼を言うと、よくなる望みを手放したようで後ろめたい。どれも、妻を大事に思うからこその迷いです。

ここで、「ありがとう」と「さようなら」を分けて考えてみてください。お礼は今日言えて、お別れは言わなくてもいい。二つは別の言葉です。例:「今日、笑ってくれてありがとう。それだけで来てよかった」「この前の通院のとき、道を覚えていてくれて助かったよ」。今日の小さなことへのお礼なら、妻にとっても、明日へ続く言葉として届きます。

何十年も一緒にいると、「ありがとう」は口にしなくても通じるものになっています。だからこそ、急に言うと照れくさく、妻に「なによ、急に」と笑われるかもしれません。それで十分です。笑ってもらえたなら、その日の言葉はちゃんと届いたと考えていいのです。長年の暮らしへのお礼のように大きな「ありがとう」は、言えそうな日が来たときでかまいません。言葉の選び方を詳しく知りたいときは、冒頭で紹介した5つの言葉の記事が役に立ちます。

言いそびれたまま、妻の反応が薄れていくこともあります。それでも遅すぎるということはありません。呼びかけに応えなくなったあとも、耳は聞こえている可能性があるといわれているからです。手を握りながら、いつもの声で伝えてください。

お礼(今日、言っていい)

  • 今日してもらったことへの「ありがとう」
  • 今日一緒にいられたことへの「ありがとう」
  • 長年の暮らしへの「ありがとう」(言えそうな日に)

お別れ(言わなくてもいい)

  • 「さようなら」のような、改まった別れの言葉
  • こちらから切り出す「もしものとき」の話
  • 涙をこらえて言う、最後のつもりの言葉
「お礼」と「お別れ」を分けて考える

妻の希望は、何をどう聞いておけばいいですか?

「これから、どこで、誰と、何をしたいか」と、「夫や家族に、これからどうしていてほしいか」の二つです。大きな問いをいきなり投げかけず、食べたいもの、会いたい人、聞きたい音楽など、小さな希望から尋ねると答えやすくなります。

希望は、小さいものほどかなえやすく、かなえた日の記憶が、あとで夫を支えてくれます。例:「今、いちばん食べたいものは?」「会っておきたい人はいる?」「病室で流したい曲はある?」。妻が「駅前のパン屋のクリームパン」と答えたら、食べられる量を看護師に確かめてから買いに行く。「妹に会いたい」と言ったら、その日のうちに妹に連絡する。小さな「かなった」が一つずつ増えていきます。

もう一つの希望は、夫や家族に向けたものです。聞きにくい問いですが、妻のほうから話し出すことがあります。例:「私がいなくなっても、ちゃんとご飯を食べてね」「あの子たちのこと、頼むね」。そう言われたら、話をそらさずに「分かった」と受け取ってください。妻の言葉は、看取ったあとの夫の道しるべになります。

これからの医療やケアについての希望は、妻だけでなく、医療者とも一緒に話しておきたいことです。もしものときに受けたい医療やケアを前もって考え、家族や医療・ケアチームと何度も話し合って共有しておくことを、厚生労働省は「人生会議」と名づけて勧めています。夫婦二人では切り出しにくいときに、看護師などに間に入ってもらう方法は、夫婦で言えないことの扱い方で紹介しています。妻が話したがらないときは、無理に聞き出さないことも、希望を大事にすることの一つです。

  • 今、いちばん食べたいもの、飲みたいもの
  • 会っておきたい人、声を聞きたい人
  • 見たい景色、そばに置きたい写真
  • 病室や部屋で流したい音楽、聞きたい話
  • 着ていたい服、使っていたい毛布や枕
  • できるなら過ごしたい場所
  • 夫にしてほしいこと、してほしくないこと
  • 子どもや孫に伝えておいてほしいこと
妻に聞いておきたい、小さな希望の例

写真や声を残すのは、妻を傷つけませんか?

妻に先に聞いて、嫌がることをしなければ大丈夫です。顔を撮られたくない時期もあるので、手を重ねた写真、好きな景色、声だけの録音など、妻が選べる形を用意します。残すことより、一緒に過ごす時間が先です。

病気で見た目が変わったことを、妻が気にしている場合もあります。撮る前には必ず「一緒に一枚撮ってもいい?」と聞き、「今日はやめて」と言われたら、その日はやめます。顔が写らなくても、重ねた二人の手、妻が編んだひざ掛け、ベッドから見える窓の外の木など、残せるものはたくさんあります。

夫婦で長く暮らしてきても、二人で並んで写った写真は意外なほど少ない、と気づく方もいます。子どもや孫の写真を撮るのは夫の役目で、自分は写っていない。看護師に「二人の写真を撮っていただけますか」と頼めば、並んだ一枚を残せることがあります。

声も、大事な残しものです。いつもの「おかえり」、孫に読み聞かせる絵本、家の味の作り方の説明、昔話をして笑う声。録音は、妻が疲れていない時間に、短く済ませます。妻の字で書かれた買い物メモやレシピも、あとになって見返すと、声と同じくらい妻を近くに感じられるものです。

気をつけたいのは、残すことが目的になって、そばにいる時間を削ってしまうことです。スマホを構えている間は、妻の顔をまっすぐ見られません。撮る日と撮らない日を決めて、残りの時間は画面を伏せておきます。撮った写真や録音は、スマホが壊れても消えないよう、別の場所にも保存しておきます。

残し方妻への聞き方の例気をつけたいこと
二人の写真「一緒に一枚撮ってもいい?」顔を撮られたくない日は、手元だけにする
声の録音「孫に読む絵本、録音しておかない?」疲れていない時間に、短く済ませる
手書きの文字「この料理の作り方、書いてくれる?」書けないときは、夫が聞き書きする
好きなものの写真「窓から見える木、撮っておこうか」本人が写らない残し方もある
残し方と、妻への聞き方の例

後悔しないようにと思うほど、何もできずに一日が終わります。どうすればいいですか?

今日することを一つに絞り、残りの時間はいつも通りにそばにいてかまいません。何もしなかったように見える日も、隣で過ごした時間は、妻にとって意味のある時間だったかもしれません。準備がすっかり整う人は、多くありません。

「後悔しないために、すべきこと」を並べるほど、今日の自分はできていないことばかりに見えてきます。そうして迷っているうちに面会が終わり、帰りの車で「また何もできなかった」と落ち込む。その繰り返しが、いちばんつらいのかもしれません。今日することは、一つだけでいいのです。「ありがとう」を一つ、希望を一つ、写真を一枚。どれか一つできたら、その日は合格です。

日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の遺族調査「J-HOPE4」(2018年に遺族17,147名を対象に行い、9,071名が有効回答)では、患者さんが亡くなることへのこころの準備が「できていた」と答えた人は29%、「ある程度できていた」を合わせると85%でした。回答者の大半は緩和ケア病棟で家族を見送った方で、すべての遺族に当てはまる数字ではありません。それでも、すっかり準備ができたと感じて見送る人は少ないことがうかがえます。準備が追いつかないと感じているのは、決してあなた一人ではないのです。

看取ったあとに「もっとできたのでは」と考えてしまうことは、誰にでも起こりえます。そのときの自分のために、今日できたことを、手帳に一行ずつ書いておく方法があります。例:「クリームパンを半分食べた。おいしいと言った」「ありがとうと言ったら、笑った」。後悔を数える日記ではなく、できたことの記録です。あとで自分を責めそうになったとき、その一行が、二人で過ごした時間を思い出させてくれます。

  1. Q1妻は今日、少しでも会話ができそうですか

    はい小さな希望を一つ尋ね、かなえられる形を考える

    いいえ手を握り、今日の「ありがとう」を短く声に出す

  2. Q2伝えたい言葉が、まだ言えていませんか

    はい今日のできごとに乗せて、ひとことだけ伝える

    いいえいつもの時間を、そばで静かに過ごす

  3. Q3看取ったあとに話を聞いてくれる人は、決まっていますか

    はいその人に「そのときは連絡する」と伝えておく

    いいえ相談先を一つ選び、連絡先を控えておく

今日、何から始めるか迷ったときの分かれ道

看取ったあとの自分のために、今から何を準備しておけばいいですか?

看取ったあとに話を聞いてくれる人を一人決め、今のうちに頼んでおきます。遺族のための相談先も控えておきます。お別れの前から悲しくなるのは自然なことで、その気持ちも、相談してかまいません。

まだ妻がそばにいるのに、涙が止まらなくなることがあります。日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の資料では、こうした悲しみを「予期悲嘆」と呼び、「喪失が現実となる以前に起こる悲嘆」と説明しています。看取る前から悲しいのは、気持ちが弱いからではありません。妻との時間を大切にしているからこそ起こる、自然な心の動きです。

看取ったあとの心の負担は、時間がたっても続くことがあります。国立がん研究センターが2022年に公表した遺族調査(2017・2018年にがんで亡くなった方の遺族、有効回答54,167名)では、死別から1〜2年たった時点で抑うつ症状がみられた人が19.3%、強い悲嘆がみられた人が30.9%でした。いずれも質問票による推計で、医師の診断ではありません。それでも、見送ったあとの支えを先に用意しておく理由としては十分です。

頼む相手は、毎日会える人でなくてかまいません。子ども、きょうだい、古い友人。例:「もしものときは、しばらく話を聞いてほしい。毎日じゃなくていいから」。頼まれた側も、何をすればいいかが分かって、声をかけやすくなります。

遺族のための相談先もあります。がんで大切な人を亡くした遺族を対象にした外来もあり、国立がん研究センター中央病院の「遺族ケア外来」がその一つです。遺族の心のケアについては、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会が『遺族ケアガイドライン 2022年版』をまとめています。がん相談支援センターは、患者さん本人でなくても、その病院に通っていなくても無料・匿名で使えるので、見送ったあとの気持ちを相談できるかどうかも尋ねてみてください。気分の落ち込みが続くときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)から地域の公的な相談窓口につながります。曜日や時間は地域によって違い、通話料がかかります。夜中にひとりでいられないときは、よりそいホットライン(0120-279-338)が24時間、無料で受けています。

  1. 1話せるうちに看取ったあとに話を聞いてくれる人を一人決め、頼んでおく
  2. 2お別れが近づいたころ交代で眠る家族と、夜に連絡する先を確かめておく
  3. 3お別れの直後連絡や手続きを家族と分けて持ち、一人で全部を背負わない
  4. 4しばらくたってから眠れない・食べられない日が続くなら、相談先や受診を考える
  5. 5命日や記念日の前後話を聞いてもらう予定を、前もって入れておく
看取りの前から、そのあとまでの支えの置き方

「ありがとう」はまだ早いと思っていた夫は、何ができた?

説明のための例(実在の方の体験談ではありません)

どなたの例か
70代・夫の立場(70代の妻が緩和ケア病棟に入院中。結婚して45年。子どもは二人とも県外に住んでいる)
相談のあとに変わったこと
面会のたびに一つずつ「ありがとう」を伝えられるようになり、妻の声で孫への絵本を2冊録音した。看取ったあとに話を聞いてもらう相手も決められた。

1. 相談のあとに変わったこと

相談から10日。この方は毎日の面会で、その日のできごとに一つずつ「ありがとう」を添えるようになりました。最初の日、「今日、笑ってくれてありがとうな」と言うと、妻は「なによ、急に」と笑ったそうです。体調のよい午後には、妻の声で孫に読む絵本を2冊録音しました。手帳には毎晩、「プリンを三口食べた」「窓の外の雲の話をした」と、その日できたことを一行ずつ書いています。県外の長男には「もしものときは、しばらく話を聞いてくれ」と頼みました。「言ってみたら、ありがとうは、お別れの言葉じゃなかった」。

2. 相談を考えた背景

妻が緩和ケア病棟に入院して3週間。主治医からは、残された時間は長くないと説明を受けていました。45年連れ添ってきましたが、改まって「ありがとう」と言ったことは一度もありません。言えば、妻に最期を覚悟させてしまう気がしていました。

3. 相談する前に困っていたこと

夜、自宅で「配偶者 癌 後悔したくない」と検索しては、「しておけばよかったこと」の一覧を読み、どれもできていない自分を責めていました。手紙を書こうとして便箋を買い、一行も書けないまま机の上に置いてあったといいます。

4. ここを選んだ理由・決め手

子どもたちには弱音を吐けず、病棟の看護師は忙しそうで、自分の気持ちまで聞いてもらうのは気が引けました。夜9時、思いきって相談室に電話をかけると、自動音声が受け付け、翌朝8時半に担当から折り返しがありました。担当が名前を名乗り、最初に「どうぞ、ゆっくりで大丈夫です」と言ったことで、肩の力が抜けたそうです。

5. 相談で話したこと・その後

担当はまず、評価も助言もせずに20分ほど話を聞きました。そのあと、「後悔したくない」を「伝える」「聞く」「残す」に分け、今週の3つを一緒に選んでいます。「ありがとう」は、お別れの言葉としてではなく、その日のできごとへのお礼として言うことにしました。看護師に聞くことは、「妻が疲れにくい時間帯」と「病室で録音してもよいか」の二つにまとめています。担当は、妻の病状やこれからの見通しについては判断していません。この方の希望で、看取り前後にやることチェックリストも送りました。妻は今も、病棟で穏やかな日を過ごしています。

※よくある状況を組み合わせて作った例です。登場する方は実在しません。相談の進み方は、状況によって異なります。

医療者に聞く質問例

  • 妻が疲れにくく、話をしやすい時間帯はいつごろでしょうか。
  • 病室で二人の写真を撮ったり、妻の声を録音したりしても差し支えありませんか。
  • 妻が食べたいと言っているものがあります。今の状態で、どのくらいなら口にできますか。
  • 家族として、今のうちに伝えたり確かめたりしておいたほうがよいことはありますか。
  • 看取ったあと、家族が相談できる窓口や、遺族のための支えはありますか。

とはいえ、妻を見送ろうとしているあなたに伝えたい2つのこと

① 気持ちのこと──支える側でい続けなくていい

妻の前では、しっかりした夫でいようとしているかもしれません。けれど、妻にとっては、夫の世話を焼くことが、最後まで「妻でいること」なのかもしれません。たとえば「ちゃんと食べてるの?」と聞かれたら、強がらずに「実はあまり」と答えてもかまいません。妻に心配され、気づかわれることも、二人の間でしか交わせないやりとりです。支えるだけでなく、ときには支えてもらうことも、妻への贈りものになります。

② 実務のこと──一人で暮らすことになる日の、見守りの形を考えておく

看取ったあと、夫が一人で暮らすことになる家庭もあります。食事や家事を妻が担ってきた場合は、毎日の暮らしそのものが大きく変わります。子どもと電話をする曜日を決めておく、近所に一人だけ様子を気にかけてくれる人をつくる、といった見守りの形を、今のうちに家族で話しておきます。高齢の方であれば、市町村が設置する地域包括支援センターが、高齢者や家族の相談を早い段階から受け、必要なサービスにつないでいます。妻に、よく作ってくれた料理を一品だけ教わっておくのも、暮らしの支えになります。

今日できること

妻と話せるうちに、今夜から明日にできる3つのこと

  1. 明日の「ありがとう」を一つ決める

    今日あったことの中から、明日の面会で言う「ありがとう」を一つ選び、メモに書いておきます。

  2. 小さな希望を一つ聞く準備をする

    「今、いちばん食べたいものは?」のように、答えやすい問いを一つだけ用意します。

  3. 話を聞いてくれる人を一人控える

    看取ったあとにも連絡できる人の名前と番号を、すぐ開ける場所に入れておきます。

よくある質問

最期の瞬間に立ち会えなかったら、一生後悔しそうで怖いです。

立ち会えたかどうかで、二人で過ごした時間の重さが決まるわけではありません。ずっとそばにいても、少し席を外したあいだにその時が来ることがあります。看護師に「変化があったら、夜中でも連絡をいただけますか」と頼んでおき、交代で眠る家族を決めておけば、できる範囲の備えはできています。間に合わなかったとしても、それまでに交わした言葉は残ります。

妻に「ありがとう」と言ったら、泣かれてしまいました。言わないほうがよかったのでしょうか?

涙は、言葉が届いた印のこともあります。慌てて取り消さず、手を握って、そばにいてください。泣いたあとに、妻が自分の気持ちを話し出すこともあります。気持ちが落ち着いたら、いつもの話に戻ってかまいません。

妻が「もう何もしたくない」と言い、希望を聞いても答えてくれません。

体のだるさや疲れで、考えること自体がつらい時期もあります。答えを求めず、好きだった音楽を小さく流す、手や足をさするなど、言葉のいらない過ごし方に切り替えてかまいません。痛みや息苦しさなど、つらそうな様子があれば、看護師や主治医に伝えてください。

写真や録音を、妻を見送ったあとに見返せるか不安です。

すぐに見返す必要はありません。しばらくは開けずにしまっておき、見られそうだと思えた日に開けば十分です。何年かたってから、子どもや孫と一緒に見返す家族もいます。残しておけば、見るかどうかは、あとの自分が選べます。

子どもたちにも、母親との時間をつくってあげたいのですが。

一人ずつ母親と二人きりになれる時間を、夫が意識してつくると、子どもも言いそびれていた言葉を伝えやすくなります。誰がいつ来られるかを紙にまとめ、病室の外で共有しておくと、ベッドのそばで予定の相談をせずにすみます。子どもとの時間の分け方は、夫・妻の最期の時期の過ごし方の記事でも扱っています。

看取ったあと、気持ちのことはどこに相談すればいいですか?

遺族のための外来を設けている病院があり、国立がん研究センター中央病院の遺族ケア外来もその一つです。がん相談支援センター、こころの健康相談統一ダイヤル、24時間のよりそいホットラインも使えます。相談室への電話(080-4178-5017)は、平日の9時から18時なら担当が直接出て、それ以外の時間にかかってきた電話は自動音声で受け付け、翌朝9時までに担当から折り返します。見送ったあとに話したくなったときも、同じ番号やLINEにご連絡ください。

今週の「ありがとう」と「聞くこと」を、一緒に決めませんか

お名前はニックネームで大丈夫です。電話を受けやすい時間帯を書いて送ると、受付確認のメールがすぐに届き、ご希望の時間帯に担当がお電話します。伝えること・聞くこと・残すことから今週の3つを選び、看取ったあとに頼れる先も一緒に確かめます。

  1. 入力は1分ほどお名前はニックネームで構いません。ご相談の内容は、ひとことでも大丈夫です。
  2. すぐに受付メール送信すると、受け付けたことをお知らせするメールが届きます。
  3. ご希望の時間にお電話電話番号は、折り返しのお電話にだけ使います。スタッフが名前を名乗っておかけします。

    必須は4項目(お困りの内容・施設名・お名前・メールアドレス)です。分かる範囲でご記入ください。写真があると、状況の確認が早くなります。

    1. 1営業日以内にご連絡(お急ぎの場合は当日中)

    2. 現地の確認は無料です(所要30分〜2時間)

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    私たちは医療機関ではないため、診断・治療・余命の判断はできません。体調の急な変化は、まず主治医や病棟・訪問看護へ。命に関わる緊急時は、迷わず119番へ。

    次の一歩

    いちばん近い人だからこそ、ひとりで抱え込まない

    パートナーの病気は、暮らし・お金・お子さんのこと・仕事が一度に重なりやすいものです。病状のことは主治医へ、お金や制度のことはがん相談支援センターや病院の医療ソーシャルワーカーへ。相談先を分けると、ひとつずつ進められます。

    主治医や看護師に聞いてみる一言

    「これからの生活のことは、どなたに相談すればよいですか。」

    1. パートナー本人が何を知りたいか、どこまで話したいかを確かめる
    2. 医療費や仕事の制度(高額療養費制度・傷病手当金など)を、相談先で確かめる
    3. お子さんへの伝え方に迷うときも、ひとりで決めずに相談する

    手元にあると話しやすいもの

    • 健康保険の資格が分かるもの(マイナ保険証・資格確認書など)
    • 医療費の領収書

    公的な相談先

    医療ソーシャルワーカー(病院の相談室など)
    医療費や制度、退院後の暮らし、在宅療養の準備を一緒に考える専門職です。
    加入している健康保険の窓口
    高額療養費制度や傷病手当金などの手続きを確かめられます。

    このサイトでできること

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    参考・出典

    監修者 木内 由香

    緩和ケア・がん患者と家族の
    支援に関する監修者

    木内 由香

    緩和ケア・がん患者と家族の支援に関する監修者

    県立がんセンターでの勤務経験を経て、がん患者さんとそのご家族が直面する療養上の悩みや意思決定の葛藤に向き合ってきました。

    がんと診断されたご本人を支えるご家族には、「一日でも長く生きていてほしい」という切実な願いがあります。一方で、緩和ケアでは、痛みや苦痛を和らげること、その人らしい生活を大切にすること、ご本人の希望を尊重することなど、さまざまな視点から療養の方向性を考える必要があります。

    こうしたご家族の願いと医療・療養方針との間に生まれる葛藤を理解し、年間約200名のがん患者さんとそのご家族に関わる中で、それぞれの状況に応じた支援のあり方や、その先に進むための選択肢をともに考えてきました。

    「がんと家族の相談室」では、がん患者さんご本人だけでなく、支えるご家族も孤立せず、必要な情報や相談先につながれることを大切にしています。医療情報を伝える際には、医学的な正確性に配慮するとともに、ご家族が抱える不安や迷いにも目を向け、療養生活の中で次の一歩を考えるための情報発信を目指しています。

    監修は医療情報の正確性と表現の妥当性に関するものであり、個別の診断・治療・余命の判断を行うものではありません。ご本人の症状や治療については、担当の医師・看護師にご確認ください。

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